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21 火を孕む福音 - la menace avec l’espoir -
「ふっ…、う」
唇を噛んで耐えても、喉から声が漏れる。うつ伏せの状態で上体をテーブルに押し付けられ、背後から身体の中心を長い指で弄ばれて、ぞくぞくと身体中を這い回る快楽がオルフィニナの思考を剥ぎ取っていく。
ルキウスが中指を内部へ押し込み、親指で硬くなった入り口の突起を撫でた瞬間、頭の中に火花が散って、身体が小さな痙攣を起こした。
「ハッ、ほら」
ルキウスが勝ち誇ったように笑い、オルフィニナの内側から抜いた指を目の前に差し出した。
「君の身体は俺を求めてる」
オルフィニナは息を切らせてテーブルに突っ伏したまま、自分のもので濡れたルキウスの長い指から視線を逸らした。
違う。と、言いたかった。が、オルフィニナは歯を食い縛った。否定したところで、事実は変えられない。もう何も知らないままの無垢な身体ではないのだ。
手首に重なってくる手のひらの温度が自分の体温と溶け合い、項に吸い付く唇の感触が、新たな快楽を細波のように全身に走らせる。
「こんなに熱くなっておいて、素直じゃないな」
ルキウスは背中の留め具をひとつひとつ外し、アンダードレスの背中の紐を解いて白い背を露わにした。
昨夜刻んだいくつもの所有印が、花びらのように散っている。扇情的だ。もっと無体を働きたくなる。
「んぁっ…!や…」
裸の背に触れ、脇からドレスの下の乳房に手を滑り込ませると、オルフィニナが小さく叫んで身をよじった。ルキウスはオルフィニナの手首を更に強く掴んで脚の間に自分の膝を挟み、それを阻んだ。指の下でオルフィニナの胸の中心が硬く立ち上がっている。
「…っ、軽率だ。あなたは、事の重大さを分かっていない」
声が震える。オルフィニナはもたらされる淫楽を拒絶するように、手のひらを強く握りしめた。
「子ができるかどうかより、俺には今、君を抱くことの方が重大だ」
「馬鹿な――」
オルフィニナが振り返った瞬間を逃さず、ルキウスはその口を自分の唇で塞いだ。
「んん!」
舌が触れ合うと同時に、ルキウスは滴るほどに濡れた内部へ中指と人差し指を挿し入れた。
「あっ…!」
「何を怖がってる、ニナ」
絶頂に達したばかりの内側がじくじくと熱を持ってルキウスの指を締め付けた。オルフィニナは小さく喘ぎながら浅い呼吸を繰り返して、まだ快楽に耐えている。
「なぜ俺たちの子が火種になると思う?むしろ、福音だとは思わないか。ドレクセンの血がエマンシュナを治めるべきだというアミラの主張は叶うし、エマンシュナの国民は百年ぶりに訪れる新たな調和に喜ぶはずだ。ここに――」
「あっ…!」
ぐり、とルキウスの指がオルフィニナの身体の奥を突いた。
「君と俺の子が宿れば」
「…っ、政治の、道具にするのか」
「それは俺も君も同じだ。王家の人間は避けられない。生まれる場所なんか選べないんだから」
道理だ。
オルフィニナは浅い場所から深くへと繰り返しもたらされる刺激に意識を奪われそうになりながら思った。
ルキウスの主張は間違ってはいない。しかし、危険な賭けでもある。新たな政争の危険な火種になるか、二つの国を繋ぐ調和の架け橋になるか、或いは両方かもしれない。どちらにせよ、生まれてくる子は命や自由を狙われることになる。平凡な人生など送れはしない。
「――あっ、んん!」
オルフィニナが快感に抗いきれず、ルキウスの指を強く締め付けて果てた時、ルキウスはとろりと溶けた蜜色の目で恨めしそうにこちらを睨む姿に欲望を抑えきれなくなった。
オルフィニナは背後でベルトを外し始めたルキウスを制止しようとしたが、頭がぼうっとして行動が追いつかなかった。やっと腕を上げた時にはいとも簡単に手首を掴まれてテーブルに押し付けられ、もう片方の手で腰を掴まれて、身動きが取れなくなった。
「ちょっと、待っ――」
「待てない。そんな顔されたら」
「ああっ!」
ルキウスがオルフィニナの身体の奥を貫いた瞬間、ガシャ!と音を立ててテーブルの上のワイングラスが倒れ、冬に咲く花とみずみずしい果実の香りを含んだ酒の匂いを空気中に放った。熱くなったオルフィニナの肌からジャスミンに似た彼女の香りが立ち、ルキウスの身体に更なる情欲を沸き立たせる。
酔いそうだ。
オルフィニナの珊瑚色の唇から漏れる小さな嬌声も、次第に桃色に染まりゆく白い肌も、全部自分のものだと感じられるまで征服せずにはいられない。
彼女の奥に律動を繰り返しながら、赤い髪が乱れて覗いた項に吸い付き、乳房を掴んで指先で頂を弄ぶと、オルフィニナが喉の奥で悲鳴をあげてびくりと内部を締め付けた。
「…ッ、は。ああ、オルフィニナ」
オルフィニナはテーブルに押し付けられた手を硬く握りしめた。何かに掴まっていないと崩れ落ちそうだ。もうとっくに脚に力が入らなくなっている。それなのに、広いテーブルの上に縋りつけるものは何もない。
それを見透かしたように、ルキウスがオルフィニナの硬く結んだ拳を後ろから撫でて開かせ、指をきつく絡めた。
「もし子ができたら、アストルの名に賭けて俺が全力で守る。ただの道具になんかさせない。もう少し信用して欲しいな。これは君だけの闘争じゃないんだ」
この時胸に迫った感情を、オルフィニナは知らない。しかし思考が入り込む隙もなく、身体の奥で繋がったルキウスの一部から繰り出される快感が全身を襲った。
「んぁっ、ああ…!」
「ほら、君だって――」
ルキウスがオルフィニナの一番深い部分に熱を打ち付けた。内部が狭まり、今にも食いちぎられそうなほどに締め付けてくる。
「…ッ、これを、我慢できないだろ。身体は俺を離したがらない」
「あっ、ン…、でも、今は、困る…」
身体が熱い。
腹の奥に刻まれる衝撃が甘美な快楽となって全身を震わせ、脳を冒し、更に奥へとルキウスを誘っている。
「いいよ。じゃあ――」
「うぅ…!」
突然の喪失感に、オルフィニナは呻いた。ルキウスが中から抜き出て、押さえつけられていた手首が解放されると同時に、腿の間を熱い何かが伝った。自分のものだ。要求通りに解放されたはずなのに、身体の奥がじくじくと淫蕩な熱を持って疼き、蠢いている。
屈辱的だ。――昨夜よりも、もっと。
「ニナ」
ルキウスが甘い声で呼び、オルフィニナの身体を掬い上げるように抱き締めて自分と向かい合わせ、オルフィニナが無意識のうちに噛み締めていた唇を撫でて開かせると、優しく淫らなキスをした。熱い手のひらが開かれた背中に伸びて肩へ滑り、未練がましく纏わり付いていたドレスを下着もろとも剥ぎ取った。
やめてはくれないのだ。
オルフィニナはルキウスを恨めしく思ったが、もっと恨めしいのはこの行為を受け入れようとしている自分だ。脚の間に熱く濡れたルキウスの一部が触れている。
「君が正直になったら、今日は中で出す前に抜いてあげるよ」
この言葉の意味を理解するよりも先に、ルキウスがオルフィニナの身体をテーブルに押し倒して膝を抱え、奥深くに押し入った。
「あぁッ――!」
「ああ…、ほら。きつく締まる。いいの?」
「――っ、ふ、ぅ…」
オルフィニナが唇を噛んで自分に衝撃を与え続ける男を睨むと、ルキウスは酷薄な笑みを見せた。
「好いなら好いと言えよ」
「獣…!」
尽きそうな理性が、オルフィニナに悪態を吐かせた。もう限界だ。快楽が迫り上がって、思考を支配する。
「君もだろ。さっきも俺を欲しがったくせに」
ルキウスは緑色の目を暗く細め、オルフィニナの中を穿った。律動するたびに彼女の内壁が吸い付いて、節度を失わせる。
「…ッ、してない」
「嘘つき」
「ああ!」
身体の最奥部を執拗に攻められ、苦痛にも似た激しい快感が嵐のように沸き立った。腹が立つ。こんなことは正しくない。
それなのに、次第に余裕をなくして顔を歪めるルキウスの瞳の奥が、燃えるような熱を持ってオルフィニナの身体の中心に火を点けていく。ぎゅう、と鳩尾が締め付けられて痛くなった。
「きれいだ、ニナ」
ルキウスは恍惚と囁いて、苦悶するように目を細めるオルフィニナの頬に触れ、柔らかな髪を撫でた。
美しくしなやかな肢体に唯一纏われているのは、華奢な首から下がる細い金とダイアモンドの首飾りだけだ。ルキウスがその中心を貫く度に形の良い乳房が上下し、肌が熱く湿って色付く。
片手で腰を掴みながらもう片方の手で乳房に触れ、その先端で膨れた実を親指でそっと撫でると、オルフィニナが手の甲で押さえた唇の奥で小さく叫び、ビクリと脚を跳ね上げた。
「気持ちいいんだ」
自然と唇が吊り上がる。彼女のこんな姿を知っているのは、この世で自分だけだ。
「ほら、いくならいくと言ってくれないと、中で果ててしまうぞ」
「んっ、あ…」
真っ赤な顔を官能的に歪めながら、オルフィニナが呻いた。もはや拒絶の言葉を口にすることもままならないらしい。快楽に抗うので精一杯なのだ。
胸にキスをし、硬くなった部分を円を描くように舌で撫でると、彼女の口から甘い吐息が漏れた。自分の一部が更に硬度を増してオルフィニナの内側を押し上げたのが分かる。加減も自制もできなくなる。
「…っは、ああ。もう、やばい。ニナ…ほら、言えよ」
「ふ、あ…っ!いや…」
「何がいや?」
ルキウスが興奮に掠れた声で囁く。腰を奥へ打ち付けられるのと同時に乳房に吸い付かれた瞬間、オルフィニナの身体の至る場所から強烈な快楽が襲ってきた。
「あ、あっ…!も、いっ――いくから――」
この瞬間は、羞恥も、自尊心も焼き切れた。上擦った声で懇願しているのが自分だという自覚もない。口では拒絶しながら、縋り付いて求めるようにルキウスのシャツにしがみ付いていることも、どれほど自分が蕩けた目をしているかも、自分では分かっていなかった。
「ぬいて…!」
叫ぶなりオルフィニナは内部をぎゅうぎゅうと締め付けて全身を震わせ、忘我の渦に巻き込まれた。
この肉体の誘惑に最後まで自制を手放さずにいられたとしたら、善意の神に祝福されていいはずだ。と、ルキウスは思った。そしてきっとそれは現実になる。
中に放つ直前でオルフィニナの嘆願に応え、自身を引き抜いて滑らかな腹の上にそれを解放した。白く濁ったものがオルフィニナの赤く色付いた肌を汚す様は、なんとも言えず淫靡だ。
「はっ、は…、ニナ」
「…っ、ん」
ルキウスは放った物をオルフィニナの肌に塗りつけるように手のひらを鳩尾から胸へと滑らせ、力の抜けた肢体に覆い被さって唇を覆った。
オルフィニナが舌の触れ合う口付けに素直に応じて首筋に手を伸ばしてくると、ルキウスの背筋にぞくぞくと快感が走った。やがて淫らな糸が二人の唇を繋いだ時、オルフィニナの琥珀色の目に強い光が踊った。
――この瞬間に気付くべきだった。が、情交の余韻でどろどろに蕩かされたルキウスの頭には、これに反応するだけの能力がなかった。
ゴッ…。と、鈍い音がしたと思った瞬間、ルキウスは額に重い衝撃を受け、チカチカと目の前に小さな無数の星が舞って、グラリと意識を失いそうになった。
頭突きをされたのは明白だが、自分と同じように頭を打ち付けたはずのオルフィニナがなぜ痛がりもせず平然としているのか解らない。ルキウスはあまりの痛みに頭を抱えてその場に蹲った。
「この、――畜生が」
オルフィニナは憤然と吐き棄て、身体も拭かずに、すっかりくしゃくしゃになったアンダードレスだけを足元から拾って乱雑に頭から被り、大股で扉へ向かった。
「ちょっと待て、ニナ」
ルキウスはズキズキ痛む額を無視してズボンの前を閉じながらオルフィニナの後を追い、扉の直前でやっと腕を掴んだ。オルフィニナは振り返らない。
「今はあなたの顔を見たくない」
初めて聞く声だ。明らかに激怒している。
「見なくていいから、部屋にだけ送らせてくれ。フラフラしてる」
「してない。いらない」
強がりだ。どう見ても脚に力が入っていない。
(ああ、くそ。かわいい)
欲望を解放したはずの部分がまた熱を持ち始める。が、これ以上したら頭突きだけでは済まないだろう。
「せめて身体を隠せよ」
ルキウスはシャツを脱いでオルフィニナの肩に掛けた。これを振り払うまでの拒絶ではないらしい。オルフィニナが一歩踏み出そうとした時にふらりとよろめいたのを、ルキウスは支えてやった。
「意地を張るなって」
「張ってない」
依然としてこちらを見ようとしないオルフィニナを、ルキウスは軽々と横向きに抱き上げた。オルフィニナは反射的にルキウスの剥き出しの肩に掴まったが、全くもって不本意といったようにそっぽを向いている。
「前も思ったけど、軽いよな。君、もっと食べた方がいいんじゃないか」
返事はない。顔を見なくてもルキウスには分かる。静かな怒りの表情のまま、むくれているはずだ。
ルキウスの歩調に合わせて揺れる髪の隙間から、血潮の色に染まった愛らしい耳が覗く。鳩尾が締め付けられて痛くなり、腹の中で何かが飛び回っているように錯覚した。身体がこんな風になったのは初めてだ。
人影のない廊下を進んで寝室の前に立った時、オルフィニナは物凄い速さでルキウスの腕から飛び降り、顔を見せることなく扉の向こうへ消えていった。おやすみの挨拶さえ、閉まる扉が拒絶した。
(参った)
と、ルキウスが閉ざされた扉を眺めながら思ったのは、オルフィニナの機嫌を損ねたからではない。
すぐに人を呼んで自分と彼女の部屋に入浴用の湯と食事を用意させなければならないというのに、口元が緩みきってしまっているからだ。締まりのない顔をしている自覚がある。
「はぁー、可愛い…」
ルキウスは口の両端をぐりぐり揉みながら呟いた。
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