文学を守る戦い

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連珠に選んでもらった万年筆とインクの包みを胸にかかえて図書館に帰ると、先輩の司書たちがバタバタと慌ただしく出かける準備をしていた。どこかただならぬ様子だ。藍墨兎は背の高い司書たちに紛れないよう声を張り上げた。 「どうしたんですか?」 「おう、小兎子(子ウサギちゃん)! お前も来い、初陣だ。《散逸》が出た」 藍墨兎の声などかき消してしまうような大声で赤毛の司書が答える。それを聞いて、藍墨兎は目をみはった。 「初陣って……無茶な! おれは今万年筆を選んできたばかりなんですよ」 「ならちょうどいい機会だな、そのペンだってお前に使われたがっているさ」 取るものも取りあえず飛び出してきた様子の赤毛の司書の後ろから、きっちりと洋服を着て品のいいタイを締めた金髪の司書が帽子をかぶりながら出てきて、ステッキで忌々しそうに赤毛の司書をつついた。 「お前、少しは身なりを整えてから出てきたらどうなんだ。それともそれがアローナの流行りか?」 「へっ、ぬかせマルストンの紳士様が。身なりで解釈が決まるもんかよ」 金髪の司書はすらりと尖った鼻先で赤毛の司書をフンと笑うと、藍墨兎を見下ろして図書館のほうにあごをしゃくった。 「今すぐペンにインクを満たしてこい、《散逸》は待っちゃくれないぞ。我々もな」 藍墨兎はぐっとあごを引いて金髪の司書を見上げ、すぐに図書館に駆け込んだ。手近な机で連珠が綺麗に包んでくれた紙を破り、万年筆の中にインクを満たす。指先とハンカチが汚れるのも構わずペン先の余計なインクをぬぐい、軸に収めてキャップをぱちんと閉めた。懐のポケットに万年筆を差し入れ、ノートをひっつかんで図書館の外に出る。それとほぼ足並みを揃えるようにして、くたびれたコートをひるがえした黒髪の司書が図書館からのんびりと歩み出てきた。 「みんな準備はいいかい? それじゃ、《散逸》のところに行くとしようか」
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