文学を守る戦い

4/6
前へ
/21ページ
次へ
「はい……まるで、人の声です」 「もちろんさ。だって、《散逸》とはまさしく……人がつくるものだからね」 司書はノートを開き、踊るようにペンを走らせる。ノートからは大鷲が舞い上がった。高らかに鳴き声をあげ、《散逸》に襲いかかる。核の男がもがくと、もやも一緒にのたうって暴れる。藍墨兎はもやの鞭に打たれかけてしりもちをついた。歯を食い縛ってノートを取り出し、真新しいペンを走らせる。光とともに生み出されたのは可憐な少女だった。少女は軽やかに袖を振ってもやを散らす。 ……選ばなければ……残すべきものを……良きものを………… 《散逸》は苦しむようにうなり声をあげ、もやを吹き上げている。足場をなぎ払われて、赤毛の司書はテラスから飛び降りた。獅子がそれを受け止め、地面を蹴ってさらに屋根の上に飛び上がる。司書は獅子の背にしがみついてノートにペンを走らせ、獅子は咆哮で応える。《散逸》もまた、のけぞるようにして叫びながらもやを地面に走らせる。ごうと音を上げて駆け抜けたもやは背後から司書たちを襲った。 「おまえたちは、不要だ!」 全身を貫くような鋭い叫び声に、藍墨兎は思わず耳を押さえて膝をつく。襲いかかった黒いもやの鎌首の前に光の少女が飛び出し、藍墨兎をかばうようにしてもやとぶつかりあい互いを散らして消えた。大鷲が風を巻き起こし、もやを切り刻む。《散逸》は怒り狂ったように細くもやの筋を伸ばして暴れた。獅子が飛び回って避け、その背で赤毛の司書が振り回される。金髪の司書もステッキを抱えて地面を転がった。一角獣が角でもやの筋をはねのけ、核に突進する。突き刺した、と思った瞬間、もやがぼうっと膨れ上がるように形をなくして一角獣を通り抜けさせた。 「何の役にもたたないものを後生大事に抱え込んで、発展を妨げているのだ!」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加