いつもの帰り道

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「この話、実は昨日オネエにきいたんだけどさー」  ユイナには二つ上の中学生のお姉さんがいる。いつもこのお姉さんの文句を言ってるユイナだけど、とっておきの話の情報源はいつもそのお姉さんだった。  ミヒロは妹が一人いるが姉はいない。アヤカは一人っ子でサナは弟が二人。ユイナ以外は家に自分より年上の子どもがいない。そのせいか三人にとって、ユイナの話はいつも初めて聞く、ドキドキする話ばかりだった。例えば、校長先生が実はカツラだとか、見ると呪われるサイトの話だとか。 大人は絶対に教えてくれない、自分達では知ることのできない話。  ユイナが話を続ける。 「パンドラってめちゃくちゃヤバイやつなんだって。」  三人はさらにユイナに顔を近づけて話に集中する。ユイナはもったいぶるようにあえてゆっくり話す。 「もしパンドラを怒らせたら……家までつけられて……必ず殺されるんだって!」 「イヤーッ!こわい!ウチそういう話ムリ!」  アヤカはもう泣き出しそう。  ユイナはそれを見てうれしそうだ。 「でも家に着けばお母さんとか大人がいるから大丈夫じゃない?」  サナが冷静に言った。サナはこの四人の中で一番のしっかり者。赤いフレームの眼鏡がサナをより賢く見せた。サナの言葉に、ミヒロとアヤカは安心してユイナを見た。でもユイナの反応は三人の予想とは違った。元もと大きな目をさらに大きく開いて待っていましたとばかりに言った。 「ウチもそう思ったんだけど、パンドラってめちゃくちゃ強くてお母さんもお父さんも殺せるんだって!今までも殺された人がいるけど何か精神?とかの理由で刑務所には行かずに済んでるらしいよ。」  それを聞いた三人は絶望した。恐ろしくて、もうパンドラの方を見ることができない。そう言われれば女の人にしては体が大きくて強そうだ。考えたくもない両親の無惨な姿を想像してしまう。そんな三人を見てユイナはますますうれしそう。  今までもこわい話はたくさん聞いたことがあった。でもその話はいつも本物かわからない、現実とは違う話のように感じられた。でもパンドラはついさっきミヒロ達の横を歩いて通ったのだ。そして今、数メートル先を歩いている。道が緩やかにカーブしているので姿は見えなくなったが、心臓はドキドキしたままだった。  四人は小学六年生。体は大きくなったけど自分達はまだまだ子供で無力だとわかっている。だから両親に守られて生きている。最近は口うるさくてムカつくこともあるけれど、これまで困難なことは全て親が解決してくれた。その親達でもパンドラの恐怖は解決できない。  三人は押し黙ってしまった。その三人を見て満足したのか、ユイナは急に明るく言った。 「まぁ、ウチも初めて聞いたときはすごいこわかったんだけど、パンドラを怒らせなければいいんでしょ。平気だよ。」  四人はゆっくりとパンドラと同じ方向に歩き出した。パンドラを追いたくはないが、四人とも家がそちらにあるから仕方がない。あんな話を聞いたあとなので自然と歩幅が小さくなる。そんな三人に対して、いつも通りのユイナは気をつけてないとつい先を歩きそうになる。 「もー。そこまで怖がるなんて……。リアクションデカすぎだろ、君たち。」  三人に歩幅を合わせるのが面倒になったのか、ユイナがふざけた口調で言った。 それに対して「うん——。」とか「はぁ。」とか三人ともはっきり答えられない。    
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