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いつもの帰り道
小学校からの帰り道。
ミヒロは、友達三人と通学路を歩いていた。
「あ、パンドラだ。」
隣を歩いていたユイナが後ろの方を見て言った。
「パンドラ?あの太ったおばさんのこと?」
ミヒロがきいた。ユイナの視線の先のその人は、ボロボロのベビーカーを押しながら片足を引きずるようにしてこちらへ歩いてくる。
「そう。あいつパンドラっていうんだよ。」
ユイナが得意そうに目を見開いて言った。
ミヒロと、前を歩いていたアヤカ、サナの三人はそれを聞いて立ち止まり、もう一度その人を見た。
少しずつ、少しずつこちらへ近づいてくるその人を、三人とも初めて見たわけではなかった。
これまでもこの通学路で何度も見ていたけど、気にしたことがなかった。でも今「パンドラ」という予想外の名前を聞いて一気に興味がわき、体の全部の感覚を使ってその人を観察していた。
腰まで伸びた髪は毛先がチリチリになって茶色がかり、白髪もたくさん混ざっている。元が何色かわからないほど色あせた服は、ダボダボでだらしない。もう十一月なのに裸足にサンダル。
何より目につくのは古いベビーカーだ。ベビーカーに赤ちゃんが乗っている様子はない。
ボロボロのタオルケットが何かを包むようにぐるぐる巻きになって乗せてられている。
四人は呼吸もまばたきも忘れて、ただ両目だけはその人を追っていた。
ズッザ、ズッザという独特な足音と共にその人はゆっくり四人の横を通り過ぎていった。
その太った体の熱気すら感じられるほど四人はその人に集中していた。そうしてしばらく、その人を見送ると向き直っていっせいにしゃべりだした。
「やばいやばい!なにあれー!」
「何でパンドラなの?外国の人じゃないよね?」
「あの人いつもここ通ってあっちのスーパーに入ってく人でしょ?私達何回も見たことあるよね!」
三人同時に話しているのをさえぎってユイナが話し始めた。
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