6:獣村

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 尚樹さんに依頼されていた内容を思い出す。今、オレの隣に歩いているのは玲さんだ。玲さんは尚樹さんの一人娘である。  『いいかい、狼人くん。君に何でも屋を任命したのは、人間の世界で生き抜くためだ』  真剣な眼差しで話す尚樹さん。  『明後日、僕の娘が偵察の旅に出る。そこで、君には僕の娘を守ってもらいたい』  尚樹さんの娘である玲さんの顔写真がホログラムで出てきた。何故、このような依頼をオレにしてきたのか、分からない。  『どうして、オレに頼むの?』  『僕は娘に嫌われているんだ。当然さ。小さい時、妻を亡くした時にそばにいてやれなかったから』  『…』  『僕にとって、玲は大切な娘なんだ。神狼の子である君なら守って上げられると、思ってね。身体能力、治癒能力、戦闘力の高い君なら、できるはず』  『別にいいけど…オレが《隔離区域》の元住人だってことを忘れないでよ。オレだって、何をするか分からないんだよ?』  『君は人を襲わない。僕はそう確信している』  いつの間にか、余裕のある笑みを浮かべていた。オレは尚樹さんに助けられた恩があるので、その依頼を承諾した。  『そうだ。玲に僕から頼まれたって、言うなよ』  『言わないよ』  『そうかい』  紅茶を飲み、一息ついた尚樹さんは再びオレを見た。  『頼んだよ』  『了解』  オレはチラリと隣を見る。玲さんと尚樹さんとの間には溝がある。それでも、オレには尚樹さんが本当に玲さんを大切に思っていると思えてならない。  「クロちゃん?そんなに見て。あたしの顔、何か付いている?」  「…いや」  ついに獣村の入り口に到着した。大きくて、赤い鳥居が立っていた。その向こうには、血の臭いがした。玲さんは気付いていないみたいだ。  「玲さん。なんで、ここに偵察しに来たの?」  「ここに人質が囚われているという情報が入ってきたの。これは極秘だから、秘書のあたしが偵察しに来たわけ」  人質?言われてみれば、かすかに人間の臭いがする。オレはその臭いを辿ってみる。  「玲さん。ここはヤバイよ。オレが護衛で正解だったね」    至る所に人の死体や血、噛みちぎった跡のある死体が落ちていた。  「!玲さん!」  森の陰から、獣が襲って来た。前、お父さんに聞いた時は大人しい獣もいたらしいけど、どうもそうではなかったらしい。次から次へと、獣たちが集まってきた。獣たちの目は殺意に満ちていた。  「玲さん。ここの獣たちは人間を生きたまま喰らい、魂を喰べるんだ」  「そんな!でも、あたしには人質を助ける義務がある!」  揺らぎない玲さんの信念に、オレは口元に笑みを浮かべた。  「オレが人間の臭いを辿るから、玲さんはオレに掴まってて」  オレは再び、オオカミに変身する。オオカミになるのは、実はかなり体力使うからむやみに使えないが、玲さんを守るためにはやむを得ない。  「行くよ!」  オレはそのまま駆け出す。獣たちが追いつけないように速く、速く、風の如く駆ける。  「さすが、クロちゃんね!」  「どうも!」  臭いが濃くなってきた。  オレたちが辿り着いたのは、一際大きい家だった。獣村のボスが住んでいるのだろう。人質の臭いと獣の臭いがする。  「ここ?」  「うん。臭いからして、間違いないよ」  背中から、玲さんを下ろしてから変化を解く。玲さんはそのまま扉を叩いた。  「え!?正面突破!?」  「こっちのほうが手っ取り早いでしょ?」  いきなりの行動にオレは驚く。さすが、尚樹さんの娘。血は争えない。
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