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そんなことを知らずに、オレは目の前にいる男に睨まれていた。
前に行きたいのに、男が通行を邪魔して前に進めない。
「お前…」
男はオレを見ると、ありえないような顔をしていた。
まさか、オレが《隔離区域》から脱出したことがばれた?
けど、決して焦らず、オレは静かな声で「急いでいるから、どいてくれないかな」と言った。男は「ああ、悪い」と、どいてくれたが、疑いの目は向けたまま。そして、何を思ったのか、男は突然大きな声で話し始めた。
「討伐課の怪物討伐捜査官、橋野隆一だ!」
オレに向かって指を指し、「俺はお前を捕まえるぞ。…いつかな」とだけを告げ、その場から去って行った。
「……」
もう、噂は広まっているのだな。オレが脱出したということに。
だが、それがどうした。
オレはもう立ち止まらない。否、立ち止まれないのだ。
鳴り止むことのない腹の音。オレはまた、別の店を探し始める。
「久しぶりだね」
なんの気配もなく、オレの背後に立つあの男にオレは少し驚く。
「…あ、あの時の男か」
「僕の名前は紹介したはずだよ」
「えーと…なんだっけ?」
困ったように笑う男は近くにオープンカーを止めさせ、オレに乗るように言った。
「まぁまぁ、そんなに警戒するなよ。君にお願いしたいことがあるから、来てもらうよ」
執事らしき人がオレを軽々と抱き上げ、車に乗せられる。
「ちょっと!どこに行くんだよ!!」
そのまま車はどこかに走り始める。オレは呆然と、窓から外を眺める。
「これから行くのは僕の家だから」
楽しそうに笑う男に、オレは諦めモードになる。
果たして、オレはどうなるのやら…。
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