5:護衛

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 あたし、玲は何故か小さな少年に守られています。  なぜ、そうなったのかというと、ある人から連絡が来て、この少年と一緒に行動するようにということだった。  目の前にいる少年は狼のお面をしていて、表情は見えない。  あたしは警察庁の官房長官の秘書を務めている。街の治安維持のためにたまに偵察しに行くのだが、今回は少年と一緒に行動することになった。  「あの、お名前は?」  「人に名前を聞く前に自分の名前を言うのが礼儀なんじゃないの?」  おまけに生意気なので、腹が立つ。しかし、あたしは大人の女性なので、笑って答える。「それもそうね。あたしの名前は玲。苗字は勘弁してね。仕事柄言えないの」  「黒崎狼人」  「ろうと?どういう字?」  少年は空に字を書くような仕草で教えてくれた。  「狼に人で狼人」  「そう、いい名前ね」  あたしがそう言うと、少年はふいっと顔を逸らす。照れているように見えた。ふっと笑みが溢れてしまう。まだ、この子は子供だものね。  「さ、偵察に行くわよ」  「…」  少年は無言であたしの後ろに付いてくる。この子があたしの護衛だというのが、未だ信じられないけど。  あの人は何考えてんだか。  「クロちゃん」  「…クロちゃん?」  表情は分からないが、あからさまに嫌そうな声を出すクロちゃん。  「ダメ?可愛いと思うんだけど」  「…まぁ、別にいいよ」  溜息が聞こえるが、聞こえないふりをする。  「あたしが今から行くのは獣村よ」  「あー…人の魂を好む獣がいる村か」  「あら、知ってるんだ?」  「まあ」  「ま、なんでもいいわ。でも、クロちゃん。あなたはあたしの護衛なんでしょ?」  「うん」  「そんな小さな身体であたしを守れるかしら?」  嫌味っぽく言ってみるが、クロちゃんはなんの反応も示さない。  あたしはこんな小さな子供に守られるほど弱くないわ。  あたしは足を進めた。
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