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あたし、玲は何故か小さな少年に守られています。
なぜ、そうなったのかというと、ある人から連絡が来て、この少年と一緒に行動するようにということだった。
目の前にいる少年は狼のお面をしていて、表情は見えない。
あたしは警察庁の官房長官の秘書を務めている。街の治安維持のためにたまに偵察しに行くのだが、今回は少年と一緒に行動することになった。
「あの、お名前は?」
「人に名前を聞く前に自分の名前を言うのが礼儀なんじゃないの?」
おまけに生意気なので、腹が立つ。しかし、あたしは大人の女性なので、笑って答える。「それもそうね。あたしの名前は玲。苗字は勘弁してね。仕事柄言えないの」
「黒崎狼人」
「ろうと?どういう字?」
少年は空に字を書くような仕草で教えてくれた。
「狼に人で狼人」
「そう、いい名前ね」
あたしがそう言うと、少年はふいっと顔を逸らす。照れているように見えた。ふっと笑みが溢れてしまう。まだ、この子は子供だものね。
「さ、偵察に行くわよ」
「…」
少年は無言であたしの後ろに付いてくる。この子があたしの護衛だというのが、未だ信じられないけど。
あの人は何考えてんだか。
「クロちゃん」
「…クロちゃん?」
表情は分からないが、あからさまに嫌そうな声を出すクロちゃん。
「ダメ?可愛いと思うんだけど」
「…まぁ、別にいいよ」
溜息が聞こえるが、聞こえないふりをする。
「あたしが今から行くのは獣村よ」
「あー…人の魂を好む獣がいる村か」
「あら、知ってるんだ?」
「まあ」
「ま、なんでもいいわ。でも、クロちゃん。あなたはあたしの護衛なんでしょ?」
「うん」
「そんな小さな身体であたしを守れるかしら?」
嫌味っぽく言ってみるが、クロちゃんはなんの反応も示さない。
あたしはこんな小さな子供に守られるほど弱くないわ。
あたしは足を進めた。
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