6:獣村

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 ギィィ―――…。  扉が開かれた。そこには当然――  「獣がいっぱいだね」  「クロちゃん、あたし人質探すから、よろしく」  「はぁ、了解」  玲さんを先に行かせる。もちろん、後を追う獣。その獣に蹴りを入れてやる。  「悪いけど、この先通さないよ」  一方で、玲は…。  「何よ、ここ!」  叫んでいた。罠が多く、その罠をかわすだけでも大変なのに。  あたしは、しらみつぶしに部屋を探して行く。血の臭いが濃い。人間のあたしでも、分かるくらい濃い。多分怪我人がいる。  「クロちゃん、連れて来ればよかった!」  クロちゃんの嗅覚が必要だった。  後悔してももう遅い。  そして、最後の部屋に到着する。この部屋は他の部屋よりも空気が違う。あたしは直感した。この部屋に人質とボスがいる。  チラリと後ろを見るが、クロちゃんが来る気配はない。仕方ないと思い、あたしだけで部屋を入っていった。  「助けて!」  女の人の声が聞こえた。  ビンゴ!  あたしは懐中電灯で部屋の中を照らした。そこには、十字架で括られている女の人がいた。その側には、大きな獣がいた。獣――いや、怪物というべきか。  「あー?お前、美味しそうだなぁ」  怪物がよだれを垂らして、ニヤリと笑う。なんとかしても、女の人を助けなきゃ。  「ていうか、ワシは今からこの女を喰べようとしていたんだよ。邪魔したお前は後で喰べてやるよ」  怪物は大きな口を開けて、女の人を食おうとする。  「待っ…」  一方で、狼人は。  「やっと、全部倒した」  全ての獣を倒し、玲を追いかけていた。何がすごいかというと、傷1つもなく、息切れもしていなかった。改めて、狼人が《隔離区域》の元住人だということを思い出される。  臭いの濃い部屋へ向かう。  「クロちゃん!」    玲さんの声が聞こえた。オレはスピードを開けた。一番奥の部屋に到着し、扉を開ける。まさに人質が怪物に喰われるところだった。  「人質を離せ!」  そして、蹴りを入れた。怪物はダメージを食らうが、倒れなかった。その隙に、玲さんに「今だ!」と人質を救い出してもらう。  人質は下着だけの状態で、傷だらけだった。  「クロちゃん!命令よ!その怪物を倒しなさい!」  「分かってる!」  しかし、怪物はオレよりも体が大きい。普段のオレでは倒せないだろう。  「邪魔をしたなぁぁぁ!!」  怪物が殴りかかって来る。体が大きい分、動きは遅いので、簡単にかわす。が、巨体にダメージを与えるためにはもう一度オオカミにならなければならない。  「お前から先に喰ってやる!」  怪物からの攻撃をかわすだけでは、限界がある。  「クロちゃん!オオカミになりなさいよ!」  「なれないってば!!オオカミになるには、体力が必要なんだって!」  考えろ。考えろ。考えろ。今オレが持っている能力でできることを。  そうだ。壁を利用して…。  オレは壁に向かって走り出した。当然、怪物も後を追って来る。怪物の攻撃を避け、壁を蹴り、そのまま怪物の頭に蹴りを入れる。  「グハッ」  効いたみたいだ。倒れて行く巨体。しかし、致命傷ではない。完全なオオカミになることはできないが、一部の力を出すことはできる。  オレは精神統一し、牙を剝きだす。そして、その牙で怪物の肩に噛み付いた。そのまま、噛みちぎる。  「うわぁぁぁぁ!!」  「ペッ…。まずい」  口元の血を拭く。  「クロちゃん、そのまま殺してしまいなさい!」  「オレは殺さないよ。殺すのだけは絶対に嫌だ」  オレは怪物に向かって、一言。  「オレはお前を殺さない」  怪物は目を大きく見開いた。怪物にとっては勝負は決まった時に殺されないということは死ぬよりも屈辱で、生き恥にさられるのと同じ事なのだ。怪物が嫌がることを狼人は知っていた。  「でも、また同じようなことをしたら、今度は容赦しない」  そう言って、人質と玲さんを連れて、獣村から出た。  「殺さないの?クロちゃん。もし、また、同じようなことがあったら…」  「また、オレが潰すだけだ」  「…そう」  さっきまで、呆然としていた人質は我に返って、オレに指を指した。  「化け物!」  ――化け物。  「ちょっと、あなた!この子はあなたを助けたのよ!」  「玲さん。いいよ」  「でも…」  「オレが化け物なのは、事実だから」  オレはしゃがみこみ、人質に笑いかけた。  「怖がらせて、ごめんなさい。大丈夫?」  「―――っ」  人質は怯えた目でオレを見る。このような視線は慣れている。  「ねぇ、玲さん」  「うん?」  「この人はどうするの?」  「警察庁に連れて行くわ。ここから遠いけどね」  「体力が回復したら、警察庁まで連れて行くよ」  その日の夜。オレたちは野宿することになった。オレは眠らなくても、問題ないので、獣が来ないか見張ることにした。
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