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3X30年、12月25日の夜。ある夫婦の間に一人の赤子が誕生した。暗闇の中で月の神々しい光が、その赤子を照らした。泣き声をあげずに、ただじっと夜空を見つめる黄金色の双眸がギラリと光った。
「忌み子じゃ!」
ガラガラの声をした老婆が声を上げた。それが合図だったのか、次から次へと罵声の声が飛んでくる。
―――生まれる前から目が見えていた。耳も聞こえていた。
「皆、見よ!これが忌み子じゃ!“これ”はワシらを殺そうとしている!」
老婆の言葉に同意する声が、あちこちから聞こえてくる。オレの誕生を決して、人間たちは祝おうとはしなかった。
「殺される前に殺せ!」
耳元で騒ぐ愚かな人間共を殺す力くらいはあったのかもしれない。
「なんて、忌々しい子なの!」
オレを見る目は、軽蔑や畏怖、恐怖を表していた。
「狼と人間の間に生まれるなんて…」
不思議だ…。
父と母は異類婚姻であった。
「人間でもない、獣でもない。化け物だ!」
「女でも男でもない、醜い!」
酷いことを言われているはずなのに、何故か悲しいという気持ちは湧いてこなかった。
「こいつは災いをもたらす存在だ!」
今思えば、この時からすでに人間という生き物がどういう生き物なのか、分かっていたのかもしれない。
「なんて汚らわしい!!」
それでも、人間を心の底から嫌いにならなかったのは…。いや、嫌いになれなかったのだ。
「テメェらなんかにオレの子を殺させない」
「あんたたちなんかに私の子を殺させない」
凛とした声が、オレの耳に響いた。芯がしっかり通っている2つの声は、オレに安心感を与えた。そして、その2つの声はいつしかオレに降りかかってきた。
「お前はオレの大切な子だ」
「あなたは私の大切な子よ」
ギュッと抱きしめる力を強め、優しくオレに笑いかけてくる狼である父と人間である母の存在があったからなのかもしれない。
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