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数日後、俺は獣村へ訪れた。鈴が一人だと危ないからと、一緒に来てくれた。
「なぁ、鈴」
「なんすか~」
「お前から見ての“漆黒の狼”とは、どんな人物だ?」
「そうっすねぇ…。
波に流されず己を貫き、他の者を正しい道に導き、救い、堕とす。
気高く穢れぬ黒を纏い、仲間を大切にし、敵には全力で倒しにかかる狼。
その牙はあらゆるものを貫いて、あらゆるものを壊す。
いつも祈るように眉間にシワを寄せて戦う。
束縛を嫌い、権威を嫌い、群れを嫌う。
誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも嘘を嫌う美しい狼…」
鈴によって語られる“漆黒の狼”の人物像。
獣村に行くためには3つのゲートをクリアしなければならない。1つ目と2つ目のゲートは難なくクリアした。
「最後のゲートが、一番難しいんだけど…」
「いらなかったみたいっすね」と鈴は3つ目のゲートに指を指した。すると、獣たちが倒れていた。
「多分、“漆黒の狼”っすね」
「強いのか」
「そりゃ、そうでしょ。狼の血が流れているんすから」
鈴に着いて行くと、崖があり、そこからどうすればいい?と聞いた。すると、鈴は笑った。
「まぁまぁ。ここで待っていれば、“漆黒の狼”は出てくるはずだから」
俺はテントを張り、“漆黒の狼”が現れるのを待った。鈴は村を見学したいと言って、どこかに消えてしまった。
「本当にいるのか?ここに」
鈴を完全に信用したわけではない。
諦めるかと思った時、ガサガサと物音がした。木の上を飛び移る音だ。
俺は上を見た。
「!!」
そこには、黒いオオカミがいた。その背中には二人の女性を乗せていた。そのうちの女性が、傷を負っていて、もう一人がその女性の背中をさすっていた。
何より、驚いたのは《隔離区域》で若い女性から聞いた、“漆黒の狼”の容姿で黄金色の瞳。それが黒いオオカミの瞳と同じ色だった。
そのオオカミと目が合った。俺は決して、逸らさなかった。オオカミはふいっと逸らし、木から木へと飛び移った。
「あれが、“漆黒の狼”」
すると、後ろから鈴が出てきた。
「ほらね、俺の言った通りだったでしょ。あれが“漆黒の狼”っすよ」
「決めた。俺は“漆黒の狼”を追う。鈴、お前も協力しろ」
「了解」
俺は刑事だった頃の、湧き上がるような気持ちが戻ってきたように思えた。真実を知りたい。そんな気持ちが俺を動かしていた。
待ってろ、“漆黒の狼”。
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