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尚樹さんに呼ばれ、オレは書斎室に入った。
「何か用?」
にっこりととてもいい笑顔で、書斎机に座っている尚樹さんがいた。
「狼人くん。玲のこと、ありがとう。前よりも距離が縮まったよ」
「それは良かったね」
オレはソファに座り、もたれかかる。柔らかいソファなので、眠りたくなる。
「さて、本題に入る。これから玲は鬼姫のいる町に向かうらしい」
「はぁ…玲さんを守ればいいんだよね」
「そうだ。ついでに鬼姫を倒してくれるかい。鬼姫は若さを保つために若い女性を誘拐し、殺害し、女性の血を浴びているらしい」
「クソ野郎だね。今回の依頼は、玲さんを守ること、鬼姫を倒すこと。それでいいよね」
「そうだ」
尚樹さんは執事を呼んで、オレに新しい戦闘服をくれた。これまでのオレの格好はパーカーに短パンだったが、新しい戦闘服は中にインナーがありその上に黒いパーカー、短パンの下にスパッツ、足袋だった。戦いやすい格好なので、有難い。
「ありがとう」
「いえいえ。僕は君に依頼している立場だからね。できるだけ支援はするよ」
新しい戦闘服に着替え、玲さんのところへ向かう。
「クロちゃん!」
尚樹さんの家の表門に玲さんがいた。前の時は動きづらそうな服を着ていたが、今日は動きやすい服を着ていた。
「新しい服?似合ってるわね。ねぇ、今度時間があったら、あたしと一緒に買い物しない?」
「女友達みたいな扱いはやめてくれる?」
「いいじゃないの」
オレは狼のお面をつけた。
「ねえ、それつける必要?」
「顔を覚えられると、後が面倒だから」
「増岡さん」
「なんだ?」
「“漆黒の狼”、鬼姫のいる町へ向かうらしいっすよ」
「そうか」
紅蘭市の獣ヶ原区のとある喫茶店で、俺は“漆黒の狼”の行方を追っていた。獣村で“漆黒の狼”らしきオオカミを見つけて以来、“漆黒の狼”に関わる情報を集めてきたが、なかなか見つからない。
しかし、鈴の情報により、鬼姫のいる町へ向かうことにした。その町とは、血獄(ちごく)市と呼ばれる、《隔離区域》に似ていて秩序のない町である。
俺は元刑事なので、腕に自信はある。
「血獄市には車で行けるのか?」
「入り口までには車で行けますよ。入り口からは徒歩っすけど」
「そうか」
俺は“漆黒の狼”のメモを目に通した。
・黄金色の瞳
・赤の混じった黒髪
・小さくて、細い
・右頬に目立つ傷跡
「増岡さん、多分今回も“漆黒の狼”に会えると思うけど、前回とは違う出会い方になるかもしれないっすね」
鈴は全部分かっているような口ぶりをした。鈴には先を見通す力があるとでもいうのか。「違う出会い方?」
「前回はオオカミを見たんでしょう。今回はもしかしたら、人型を見られるかも」
楽しそうな声を上げて、笑う鈴。
「ま、それは血獄市に行ってからの楽しみってことで」
「…」
俺は車を運転した。鬼姫のいる町、血獄市を目指して。
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