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「クロちゃん」
「何?」
「今回も車ないから、背中に乗せて」
「嫌だよ!疲れるんだから、あれ」
玲さんの無茶振りにオレは苦悩していた。尚樹さんと似ていて、少し自由すぎる。
「尚樹さんにお願いして、車を配布してもらえば?」
「…」
「まだ、甘えられない?」
「だって、長い間口もきかなかったもの。今更、照れるわよ」
「めんどくさっ。じゃぁ、オレからお願いするわ。玲さん、車の免許はあるんでしょ?」
「ええ」
オレはスマホを取り出し、尚樹さんを呼び出す。
「どうしたのかね?」
尚樹さんに車の用意できるかと尋ねると、できるよと言ったので、車を用意してもらった。
そこで、想定外なことが起こる。
「玲さん!運転が荒いってぇぇぇ!!!」
そう、玲さんは運転が荒いのだ。
「早く着けるんだからいいじゃないの!」
玲さんの運転は心臓に悪い。まぁ、思ったよりも早く血獄市に到着できたが。
「あら、ここから先は車禁止?」
「徒歩で行くしかないでしょ」
オレたちは車から降り、徒歩で町の中心に向かう。女性の匂いがする。
「玲さん、ここに女性がたくさんいるよ」
「お父さんから聞いたわ」
鬼姫がいると言われているのは、血獄市の中心部にある赤いお城である。そのお城に向かって歩いていく。獣村と違って、獣たちがいる気配はない。しかし、ボロボロな家がたくさんあり、夜逃げした状態のままの家がほとんどだった。
ついに、鬼姫がいる城に到着した。城までの道は渡橋で、下には針山があり、落ちたら、即死するであろう危険な道である。
「怖いんだけど」
玲さんが嫌そうな声を出す。人間からして見たら、ここは怖い場所だろう。オレは玲さんを守る義務があるので、渡橋を渡らない方法を提案した。
「玲さん。オレの背中におぶって」
「え」
そう、おんぶである。むやみにオオカミ化するわけには行かないので、玲さんをおぶって、跳躍して、お城の前まで行こうとする。
「え、嫌よ!恥ずかしいもの!」
嫌がる玲さんに頭を抱えそうになる。
「じゃぁ、渡れるかも分からない橋を渡る?」
「うぐっ…」
玲さんがやっと折れてくれて、オレの背中に乗った。
「あたしよりも身長の低い子におんぶするなんて…屈辱」
後ろでブツブツと何かを呟いているが、時間の無駄なので、オレは膝を曲げ、跳躍した。
「いやぁぁぁぁ」
耳元で騒ぐ玲さんに「うるさい!」と一喝し、お城の扉の前までに跳んだ。
「着いたよ。玲さん、大丈夫?」
「大丈夫じゃない…」
オレは扉の近くにあるインターホンを鳴らす。
ピンポーン。
しかし、返事はない。
「クロちゃん、臭う?」
「うん。血の臭いがするね。多分、城の中は死体でいっぱいだから覚悟した方がいいよ」
しばらくして、扉が開いた。重々しい音を立てて、開かれた。
『ようこそ、私のお城へ』
どこからかアナウンスが流れてきた。その声は恐らく、鬼姫本人のだろう。
『あら、綺麗な女の人がいるわね。あなたの血が欲しいわ』
どこからか見ているのか、玲さんの血が欲しいと言ってきたのだ。
「誰があたしの血をあげるもんですか!」
玲さんが強気に出る。
『ふふっ。そういう気の強い女、好きよ。さぁ、私のところまで辿り着けるかしら』
そこで、アナウンスが切れた。その瞬間、たくさんの女の人が現れた。女の人は何かに操られているかのように、光のない目をしていた。叫び声をあげながら、オレたちに襲い掛かろうとした。
「玲さん!掴まってて!」
オレはできるだけ、女の人に傷を付けないように急所を狙って、気絶させる。ここにいるみんなはあの鬼姫に操られている被害者なんだ。死なせるわけにはいかない。
「玲さん!警察に電話して、女の人たちを救出してもらうように言って」
「とっくにやってるわよ」
「さすが、玲さん!」
オレたちは鬼姫のいる部屋を探しに、走った。
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