8:鬼姫

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 「クロちゃん」  「何?」  「今回も車ないから、背中に乗せて」  「嫌だよ!疲れるんだから、あれ」  玲さんの無茶振りにオレは苦悩していた。尚樹さんと似ていて、少し自由すぎる。  「尚樹さんにお願いして、車を配布してもらえば?」  「…」  「まだ、甘えられない?」  「だって、長い間口もきかなかったもの。今更、照れるわよ」  「めんどくさっ。じゃぁ、オレからお願いするわ。玲さん、車の免許はあるんでしょ?」  「ええ」  オレはスマホを取り出し、尚樹さんを呼び出す。  「どうしたのかね?」  尚樹さんに車の用意できるかと尋ねると、できるよと言ったので、車を用意してもらった。  そこで、想定外なことが起こる。  「玲さん!運転が荒いってぇぇぇ!!!」  そう、玲さんは運転が荒いのだ。  「早く着けるんだからいいじゃないの!」  玲さんの運転は心臓に悪い。まぁ、思ったよりも早く血獄市に到着できたが。  「あら、ここから先は車禁止?」  「徒歩で行くしかないでしょ」  オレたちは車から降り、徒歩で町の中心に向かう。女性の匂いがする。  「玲さん、ここに女性がたくさんいるよ」  「お父さんから聞いたわ」  鬼姫がいると言われているのは、血獄市の中心部にある赤いお城である。そのお城に向かって歩いていく。獣村と違って、獣たちがいる気配はない。しかし、ボロボロな家がたくさんあり、夜逃げした状態のままの家がほとんどだった。  ついに、鬼姫がいる城に到着した。城までの道は渡橋で、下には針山があり、落ちたら、即死するであろう危険な道である。  「怖いんだけど」  玲さんが嫌そうな声を出す。人間からして見たら、ここは怖い場所だろう。オレは玲さんを守る義務があるので、渡橋を渡らない方法を提案した。  「玲さん。オレの背中におぶって」  「え」  そう、おんぶである。むやみにオオカミ化するわけには行かないので、玲さんをおぶって、跳躍して、お城の前まで行こうとする。  「え、嫌よ!恥ずかしいもの!」  嫌がる玲さんに頭を抱えそうになる。  「じゃぁ、渡れるかも分からない橋を渡る?」  「うぐっ…」  玲さんがやっと折れてくれて、オレの背中に乗った。  「あたしよりも身長の低い子におんぶするなんて…屈辱」  後ろでブツブツと何かを呟いているが、時間の無駄なので、オレは膝を曲げ、跳躍した。  「いやぁぁぁぁ」  耳元で騒ぐ玲さんに「うるさい!」と一喝し、お城の扉の前までに跳んだ。  「着いたよ。玲さん、大丈夫?」  「大丈夫じゃない…」  オレは扉の近くにあるインターホンを鳴らす。  ピンポーン。  しかし、返事はない。  「クロちゃん、臭う?」  「うん。血の臭いがするね。多分、城の中は死体でいっぱいだから覚悟した方がいいよ」  しばらくして、扉が開いた。重々しい音を立てて、開かれた。  『ようこそ、私のお城へ』  どこからかアナウンスが流れてきた。その声は恐らく、鬼姫本人のだろう。  『あら、綺麗な女の人がいるわね。あなたの血が欲しいわ』  どこからか見ているのか、玲さんの血が欲しいと言ってきたのだ。  「誰があたしの血をあげるもんですか!」  玲さんが強気に出る。  『ふふっ。そういう気の強い女、好きよ。さぁ、私のところまで辿り着けるかしら』  そこで、アナウンスが切れた。その瞬間、たくさんの女の人が現れた。女の人は何かに操られているかのように、光のない目をしていた。叫び声をあげながら、オレたちに襲い掛かろうとした。  「玲さん!掴まってて!」  オレはできるだけ、女の人に傷を付けないように急所を狙って、気絶させる。ここにいるみんなはあの鬼姫に操られている被害者なんだ。死なせるわけにはいかない。  「玲さん!警察に電話して、女の人たちを救出してもらうように言って」  「とっくにやってるわよ」  「さすが、玲さん!」  オレたちは鬼姫のいる部屋を探しに、走った。
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