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戦争の混乱に紛れて、オレは脱出しようとしていた。昔、お父さんの後を付けた時に見つけた地下空洞。それを使い、地下で騒ぎの中たった一人で、“外”を目指す。《隔離区域》は周りを鉄柵やコンクリートによって囲まれており、そう簡単には入り込めない。もちろん、出るのも簡単ではない。鉄柵の周辺には《隔離区域》を恐れた住民が残した家が何軒もあり、実際に住まれている民家は40キロ先にある。《隔離区域》の出口の近くには、何人かの番犬が巡回しているらしく、少しでも怪しい者がいたらすぐに身柄を確保される。
番犬というのは、《隔離区域》の法律の番人で普通の法律では裁けない者たちを《隔離区域》の法律によって裁く者たちのことだ。見つかれば連行され、二度と生きて戻ることはない。見た目は黒尽くめで、死神のような姿をしている。不気味である。
オレは見つからないように、気配を消し、洞窟に向かう。洞窟内は暗く、腐敗臭が漂う。鼻がいいオレにとっては苦痛だ。水滴の落ちる音が静かに響く。
感覚にして4~5時間ほど歩き続けたのだろうか。かすかではあるが、光が溢れている場所を見つけた。近づいてみると、そこには……。人為的に空けられただろう50センチほどの穴に木で作られた板が張られ、かすかな光はその隙間からのものだった。
隙間に手を突っ込み、一気に板を取り外す。外した瞬間、溢れる光に目を奪われ、一瞬だけ怯んでしまう。あまりの眩しさに手で顔を覆い、穴から外へと出る。
そこには悠然とした自然が広がっていた。穴から完全に抜け出し、立ち上がると空を見た。
空って…青いんだ。
《隔離区域》はずっと夜だった。月も日もない暗闇の夜。初めて見る青い空の美しさに感動する。
そして、振り返ると、はるか遠くに《隔離区域》はあった。黒煙が見える。今も大勢の人たちは逃げ惑っているのだろう。そう思うと、胸がチクリ、と痛んだ。
サァッ…と優しい風に吹かれ、目を閉じた。
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