2:脱出

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 「君が黒崎狼人かね?」  不意に声が聞こえ、瞬時に身構える。  「そんなに身構えるなよ。敵意はないよ」  そこにはスラッとした出で立ちの175センチくらいの男が白いコートに身を包んでいた。  「誰?」  「僕かい?竜王尚樹だ。君のお父さん…黒崎神狼の友人だよ」  「お父さんの?」  「そうだよ。で、君は黒崎狼人くんで間違いなさそうだね」  「だったら、どうする」  「これを君にあげるよ」  そう言うと、男は中身の詰まったバッグをオレの方に投げてきた。中を見てみると、  「…服?日用品?お金もある…」  何の躊躇いもなく、オレの方に歩いてくる男は、「これも渡しておく」と何かの紙を渡してきた。  「……?」  「これは身分証明書だよ」  「身分証明書?」  「人間の世界には必要なんだ。何せ、自分を証明するものだからね。ま、作るのに苦労はしたが」  紙を見てみると、オレの名前などの個人情報が書いてあった。何故、知っているのかは不明だが、あえて聞かないことにした。 ―――――――――――――――――――――― 名前:黒崎狼人〈クロサキロウト〉 性別:MF(男でもない女でもない) 第三の性:オメガ 生年月日:3X30年12月25日 現12歳 血液:BB 種族:半人間(狼と人間のハーフ) 親:父親××× 母親××× 出身地:××× 住所:東京都紅蘭市獣ヶ腹区25-64 電話番号:×××-×××-××× 職業:何でも屋 身元引受人:竜王尚樹 ――――――――――――――――――――――  親の名前や出身地、住所などは嘘だ。そう、この身分証明書のほとんどが虚偽なのだ。  「嘘が多いんだけど、いいの?」  すると、男は「あぁ、大丈夫。外国に行かない限り、バレないからねぇ」と気楽な声を出す。  「…」  「ははっ。冷たい反応だねぇ。そういうところは神狼に似ているんだね」  男は楽しそうに笑った。  お父さんに人間の友人がいたという話を聞いたことがないオレは目の前の男に不信感を抱く。  「あんた、本当にお父さんの友人?」  「そうだよ」  「どうして、オレを助けたの?」  オレのその質問に、一瞬だけ男の顔から笑顔が消えた。しかし、すぐに元の胡散臭い笑顔に戻る。  「面白いことを聞くね。それはまた今度、会った時にでも話すよ」  さらりと次の約束を取り付けた男。  「そうだ。神狼の居場所を知っているかい?」  「…どうして?」  「聞きたいことがあるからね。で、どこにいるんだい?」  「知らない」  「そうかい。ありがとう」  男はそう言って、近くに待機させておいた白のオープンカーに乗って、「じゃあね、また会おう」と去って行った。  「…何なの」  一人だけ取り残されたオレは、目的地が分からないまま歩き始めた。
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