3:再会

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 「腹、減った…」  そんなことを呟きながら、オレは一人である街を黙々と歩き続ける。  オレが今いる街の名前は“紅蘭市”。人口が約180万人の大都市と呼ばれる場所だ。《隔離区域》の住人だったオレでも知っているほどの大都市である。 今、オレはそんな都市の少し外れにある商店街を歩いている。辺りは賑わっていて、多種多様な店が並んでおり、所々から売り買いや勧誘の声が聞こえてくる。  《あそこ》とは違って、平和な街。オレが《あそこ》から脱出して2週間が過ぎていた。男からもらったお金でなんとか生きている。  グー。  鳴り止まない腹の虫にオレはため息を吐いた。  「我慢できない。どっか、店に入ろう」  キョロキョロと周りを見回す。お店を探していると、後ろから声をかけられる。  「そこの少年!…いや、少女?」  ――ここで、オレの身体について説明しよう。普通、性別は男か女のみだけだが、オレは男でも女でもない珍しい性別を持つ。そのため、少年や少女と呼ばれても仕方がないのだ。ある人によると、運命の人が現れれば、性別が安定するらしい。ま、オレは信じていないけど。  また、狼には性が3つ存在する。それはなぜか。オレは珍しい種族で、狼族と呼ばれているらしい。生き残るために男同士でも子孫が生まれるようにそうなっている。まずは社会的に優遇されるアルファ。次に一般のベータ。最後に社会的に低い身分であるオメガ。オメガは極めて少なく、珍しいので実験台にされることも少なくはない。  オレはオメガだ。  オメガは男でも妊娠できる不思議な性である。オメガは普段通りに生活していれば、問題はないが、発情期(ヒート)が来ると猛烈なフェロモンが生まれる。その同時に独特の匂いも生まれる。そのフェロモンや匂いに当たられた、アルファやベータから番を迫られる。本能で生きるこの世界では当然のことだ。発情期が来たら、外に出ないのが賢明である。番を作れば、大丈夫らしいが、そのような相手がいない場合は先ほどにも言ったように外に出ないことだ。  「おーい」  「オレ?」  「そうそう」  声をかけて来たのは、青年と老人だった。  「綺麗な顔をしているのう」  と老人がジロジロと顔を見てくる。  「その目はコンタクト?黄金色って、見たことないな」  「…いや、コンタクトじゃない」  「赤の混じった黒髪も綺麗じゃのう」  「本当に綺麗な顔をしているね。君なら、すぐに人気になれるよ」  やたらとしつこく褒めてくる青年と老人。  「何の用?」  「あー、そうそう。俺たちの店で働く気ない?」  青年は優しい笑顔でそう言った。  正直、お金はもう無くなりそうだった。だから、このような誘いは本当に助かる。が、  「どんな仕事?」  仕事をするなら、ちゃんとした仕事の方がいいだろう。  「お客様の相手をするだけの仕事だ」  「断る」  どうしようもねぇな。と思い、その場から去ろうとすると、「なら力ずくで連れて行くしかねぇな」と鉄パイプを振りかぶってくる青年。でも、動きが遅くスローモーションに見える。避けながら、青年に近づいて行く。そして、背後に周り、青年の首を叩く。そして倒れる青年。  「貴様!何をした!」  老人が声を上げる。  「いや、少しの間眠ってもらっただけだよ」  オレはしゃがみこみ、気絶しているであろう青年に声をかけた。  「せっかく人間に生まれたんだから、人生を無駄にするんじゃないよ」  「…その言い方だと、貴様が人間じゃないみたいだな」  怯えるような声を出す老人の言葉にオレは、笑って答えた。  「思ったよりも、人間っていうのは恵まれているんだよ。しっかりしなよ、しっかり」  オレは手を振り、その場を後にした。  あの後、老人が「まさか…漆黒の狼?」と呟いていたのは、誰も知らない。
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