10人が本棚に入れています
本棚に追加
「雪が落ち着いてから降りよう」
中級コースのリフトを降りた所で彼が言った。確かに午後に入って細かな雪が降ってきたが、滑れないという程ではない。
「まだ行けそうですよ?」
リフトを降りた人達が滑っていく背中を見た。
「でも、スノボは今日が初めてなんだろう?」
「午前中にたっぷり練習しましたし、スキーはまあまあ滑れるので大丈夫ですよ」
本当は雪国育ちで小さい頃から親しんでいたスキーは得意だった。おどけて見せたが、彼の表情はどこか暗い。
「ーーそこの休憩所で温かいコーヒーでも飲もう」
彼にしては歯切れが悪い言い方だ。彼の方が休憩したかったのだと気付き頷くと、ほっとしたように歩いて行く。何となく歩き方がぎこちない。
「もしかして足ひねっちゃいました?」
「いや、ちょっと違和感あるくらいでーーレンタルしたブーツが合わなかったかな。ごめん。もっと滑りたいよな。少し休めば行けるから」
申し訳なさそうにしている彼を傷つけない言葉を探して、結局「はい」とだけ返事をする。
「そこに座っていて。何がいい?」
「あ、じゃあコーヒーで」
「了解」
彼は自動販売機でホットコーヒーを二つ買って私の隣に腰掛けた。
「はい」
コーヒーのいい香りで緊張が和らいできた。
「あの、足が痛いって言ってくれていいんですよ」
「そうだね。ごめん。良い所、見せたかったんだ」
微笑んだ彼の前髪から水滴が落ちるのを綺麗だなと思った。
「格好良かったですよ」
急に恥ずかしくなって俯くと、ゴーグルからどさりと雪が落ちた。
「外の雪、もう少しかな」
窓の外を見つめる彼は室温のせいか頬が赤い。
おわり
最初のコメントを投稿しよう!