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「先輩、今日のランチどうします?」
「そうだねーイタリアンとか行く?」
「いいですねー!」
女性の声だった。おそらくこのビルで勤めている会社員だろうか。
(嘘だろ?ドアを閉める前に、ちゃんと目の前に小便器があるのを確認したはずなのに!)
男は鍵を閉める前に、確かに小便器を見ていた。しかし、この様な状況下で姿を見られたらかなりまずい。通報でもされたら有休どころではない。無期限の休みに入ってしまう。いくら仕事が嫌でも、彼は今ある日常を手放すわけにはいかなかった。
「ほらいくよー」
「あっ、待ってくださいよー」
足音と共に、彼女たちの声が遠ざかっていく。男は鍵を開けて、ゆっくりと扉の隙間から人がいないか確認した。そして息をひそめて、怪しまれないように人通りのない道に一旦避難した。そこで数分待ち、やっとの思いで大通りへと出た。
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