コネルタカ雑貨店

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 トモカには、今欲しいものがある。    小学校の通学路の途中に、最近小さな雑貨店が開いた。コネルタカという雑貨店のショーウィンドウに飾られていた猫の髪飾り。その猫の顔のモチーフにした美しい琥珀石に、トモカは一目で心を奪われたのだ。    今日は月に一回のお小遣いがもらえる日。家に帰ると机の上に置かれていた『トモカおこづかい』とかかれた封筒を手に取り中身を確認する。しっかり500円入っていた。余った分をこつこつ貯めていたので財布には1500円ある。……これなら買えるかもしれない。そう思ったトモカは財布をにぎりしめて家を飛び出した。  店が見えるとトモカははやる気持ちを抑えることなく走り出す。アンティーク調の扉の前で呼吸を整える。目線をショーウィンドーに向けた。髪飾りはまだある。大きく深呼吸をして扉に手をかける。ゆっくりと引き寄せると扉につけられた小さな鈴が心地よい音を響かせた。 「いらっしゃいませ」  店員らしき若い男がこちらに気が付き笑顔を向ける。 「こんにちは……」  小声で返事をして、ぐるりと店を一周する。猫の雑貨ばかりが並んでいて、ここが猫専門の雑貨店だと気がついた。猫の髪飾りの前に立つ。やっぱりかわいいなと思いながら値段を確認しようと周りを見渡す。外からは値札が見えなかったのだ。しかし、値札らしきものは見つからない。 「なにかありましたらお声掛けくださいね」  どうしようかと考えていた時、男が丁寧な口調で声をかけてきた。トモカは今がチャンスだと、目の前の猫の髪飾りを指さした。 「これ、いくらですか」  男は笑顔で髪飾りを見る。 「3500円です」 「3500円……」  トモカは思わず繰り返す。財布の中には今日もらったお小遣いを含めて2000円。1500円足りない。お小遣い3ヶ月分だ。3ヶ月もあったら きっとこの髪飾りは売れてしまうだろう。そう思ったトモカはどうすればいいかわからず、俯いてしまった。その様子を見ていた男はなにか考える素振りを見せて、店長と呼びかけながら店の奥へと行ってしまった。しばらくすると男は男よりも少し年上のような女を連れて戻ってきた。この店の店長のようだ。 「その髪飾りが欲しいのかい」  店長は中学生の男の子のような声でトモカに言った。トモカが頷くと、店長はいくら足りないんだいと続ける。 「……1500円です」  トモカが答えると、女はトモカを値踏みするように眺めそして頷いた。 「今日からうちに掃除を手伝いに来な。いつでもいいよ。来なくなってもいい。20日だね。合計で20日手伝いに来たらその髪飾りはお前さんの物だよ」 「え……?」  突然の申し出に困惑するトモカに店長はやるのもやらないのも自由だよ、と付け足す。 「や、やります!」  今を逃せば髪飾りは手に入らないかもしれない。そう思ったらやらないという選択肢はトモカにはなかった。 「よし、いい返事だね。じゃあそこの猫目にいろいろ教わりな。お前さん名前は?」 「柏木トモカです。よろしくおねがいします」 「トモカだね。よろしく」  店長から差し出された手に緊張しながら答えて握手する。手はトモカより少し冷たかった。  その日からトモカは時間を見つけてコネルタカ雑貨店に通うようになった。  習い事がない日は家に帰るとすぐに宿題をもって店に向かい、店の奥に置かれたテーブルで宿題をする。店員の男、猫目は大学生のバイトだと言っていて、わからないところは教えてくれた。宿題が終われば一緒に店の掃除をした。 「トモカちゃんは覚えが早いね」  猫目に褒められるのは少し恥ずかしかったが嬉しく、掃除用具を持つ手にも力が入る。  そして掃除が終わる頃になると、店中に不思議な香りが立ち込め始める。わくわくする心を必死で抑えて掃除に取り組む。箒をしまって店の奥に戻ると、猫の尻尾が持ち手になっているティーセットが宿題をしているテーブルに用意されている。不思議な香りの正体はハーブティーだ。トモカは心の中で猫のお茶と呼んでいるそのハーブティーが掃除終わりの楽しみになっていた。そしてもう一つ、楽しみにしていることがある。 「今日はどんなお話?」 「そうだね。猫が出てくる昔話をしようか」  店長が猫のお茶を飲みながらしてくれる猫の物語。それに耳を傾けながら登場人物に思いをはせるのが今のトモカの楽しみだ。
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