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細い顎を掴み、男の顔を傾けさせる。
白い首筋に薄っすらと残る傷痕が、露になった。
俺が嚙んだ、傷痕。
俺が男の首筋に刻んだ、傷痕。
酸素を求める魚のように、小さく開いた口の中に唾液が溢れ、舌がそれを渇望した。
男の首筋に、傷痕に、舌を這わせる。
「やめろよっ」
体を突き返した腕を掴み、強張った唇の端に軽く唇を当てる。
「な?」
男の目を覗き込む。
「うぜぇ。とっとと帰れよ」
「帰らねぇ」
手を振りほどこうと、男の腕に力が入る。
そんなもの、簡単に放すつもりは更々ない。
腕を強く掴み、引き寄せ、体勢が崩れた男の体を無理やり胸の中に収めた。
そして、強く抱き締める。
男の体が壊れてしまいそうなくらい、強く……、抱き締めた。
欲しいんだよ……。
欲しくて、欲しくて、堪んねぇんだよ。
心も体も。
お前の丸ごと全部が、欲しくて欲しくて、堪んねぇんだよ……。
でも、今は……。
肩に感じた、柔らかい重み……。
それだけでいい。
今は、それだけで……、充分だ……。
お わ り
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