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「ごゆっくりどうぞ」
男がコンッとガラスの天板を二回鳴らし、テーブルにコーヒーの入ったカップを二つ置いた。
少しして、寝室のドアが閉まる音が、遠くに聞こえた。
「あっ、これ、近所のケーキ屋の……。憶えてる? 焼き菓子なんだけど、懐かしいかな……と思って。よかったら……」
「あ、うん……。ありがと……」
差し出された紙袋を受け取った。
見覚えのある紙袋。彼の実家近くにあるケーキ屋の、紙袋。
手が震えないよう、腕に力を入れた。
息が苦しくて仕方がない。どれだけ吸っても、吸っても、酸素だけが体に入ってこないみたいだった。
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