「恋文」

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 拝啓  もしこの手紙をあなたが見ているなら、あの頃の私にはなかった勇気があったに他なりません。手紙を書き終えた私がそうであって欲しいと願うかどうかは今のところ分かりかねますが。  明確に言えることは、これはきっとラブレターなのです。あの頃は出せなかった正真正銘のあなたへの想いを込めた手紙です。  どこから書けば良いか分かりません。何を隠そう、こうしてあなたへの手紙を認めていると、懐かしい日々が思い出され、伝えるべき想いが風に靡く火の粉のように飛ばされてしまいそうになるのです。  ですから、はじめての出会いから遡ることをどうぞお許しください。思い出の階段を一つずつ、一つずつ登らせて欲しいのです。そうしないと私たちの間に流れた果てしない時間を埋められない気がして。  あれは、二十九年前のことでしたね。  あの頃は高校生が携帯なんてものを持っている時代ではありませんでしたから、私の連絡手段と言えば家の固定電話くらいのものでした。
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