「恋文」

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 友人のほとんどはポケベルを持っていましたから、「雪とは連絡が付きづらい」と面倒くさがられたものです。いまに比べれば、ポケベルもさほど便利なものではなかったはずですが、あのひとときの流行りの中にいながら、それを使わなかったことは、なんとなく切なく感じてしまいます。  それでも後悔がないのは、他ならぬあなたとの文通があったからです。  文通と言うと少しおかしい感じがするのは、少し代わった手法を取っていたせいかもしれません。交換日記とでも言った方がより正確だったのかも。とにかく、あの手紙のやり取りがある限り、私にポケベルなんてものは必要なかったのです。  あの日のことは昨日のことのように思い出されます。阪急伊丹駅までのほんの数分の間に起こった出来事が、私の中で永遠に色褪せないネガのように焼き付いているのです。  いつもと同じ通学の電車、いつもと同じ車両、いつもと同じ席。でも、斜向かいにはいつもはいないはずの男の子がいました。目に入ったのはこの辺りではない制服が珍しかったからかもしれません。私の注目を余計に集めたのは、あなたが手帳に夢中で何かを認めていたからです。
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