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時間に追われているその必死な姿を見て、何かも分からず、私は手に汗を握りました。「とにかく頑張れ」と心の中で声援を送り、「どうか間に合ってくれ」と祈りを込めました。
電車が伊丹駅に着いてもあなたは手帳にペンを走らせていました。もう少し見守ろうか悩んだのですが、私は遅刻をするわけにはいきません。時間には厳しい学校でしたから、一秒の遅れも認めては貰えなかったのです。でも、私は朝が苦手なタイプでしたから、いつも時間ギリギリになるまで、布団の中に籠もって最終警告である母の雷が落ちるのを待っていました。
後ろ髪を引かれながらも下車をして、鞄から定期を取り出そうとした時です。ふいに肩を掴まれ、私は飛び上がりそうになりました。
叫び声を出さなかったのは、息を切らしたあなたの「あの!」という言葉があったから。通勤通学で慌ただしいホームにいながら、私は背後にいる男の子の呼吸を確かに感じました。緊張と興奮、それらは肩越しに確かに伝わって来ていました。
おずおずと私が振り返れば、頬を赤くしたあなたが何かを差し出してきていて、勢いに負けた私は思わずそれを受け取ってしまいました。
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