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――次の日。
「会長! ちょっとお聞きしたいことが……おや?」
部室(仮)に入ると、伊沖会長が珍しくノートPCを相手に難しい顔をしている。
「何しているんです?」と尋ねると。
「おお、上杉! 実はな、例の件を昨日から色々と調査をしていたのだ。お陰で、結構イイ線まで情報が集まったぞ」
嬉しそうな顔で画面を指差す。
「ええ! もうですか! 流石ですね……どれどれ」
覗き込んだ先に記されていたのは。
『黒麻先輩が理想とする女性像について』であった。
「……何ですか、これ? てっきり盗撮犯の資料かと」
「は? 何とは何だ。今回の目的は飽くまで私が黒麻先輩とお近付きになることであって、盗撮犯なぞそのための出汁に過ぎん! ならば黒麻先輩の情報収集は必須であろーが!」
ダメだ。何か大事な物を見失っている。だが、今それを言っても聞きはすまい。とりあえず中身を読むと。
「ええっと、『好みの身長の範囲は下限152センチから上限162センチ』……と」
「うむ、問題ない」
会長はそう胸を張って断言しているが、167センチのボクから20センチ近くは低いはず。
「かなり上背が足りないのではと」
「やかましい! それくらい誤差だ誤差! シークレットシューズでどうにもでもなる」
と、譲らない。
「理想とするスリーサイズは『B83以上 W63以下 H88以上』で『C-Dカップ」
「全く問題ない」
チラリと横目で再確認してから。
「……お恐れながら申し上げると、む……」
「じゃっかぁしぃぃ!! ンなのはブラと詰め物でどうでもなるんじゃ! 合コンの基本技だぞ!」
「……分かりました。次に『髪はセミロングで』」
「髪型なんぞ美容院に行けば済むことよ」
「『大人しい性格の』」
「黙っていれば誰でも大人しいぞ」
「『読書好き女子を好む傾向がある』」
「私も読書好きである! どうだ、完璧ではないか。これならチャンスとアピールさえあればなぁ……」
勝利を確信したかのように嬉しそうな笑みを湛えているが。
「ちなみに、読書はどのような?」
「よくぞ聞いてくれた。超常現象の最新知見を学ぶ上で『月刊ムーン』は欠かせんし、後は古典として『妖怪大全』とか……」
……多分それ、世間一般では『読書』という範疇に入るかどうか微妙ですよ。
「それにしても、よくこんなデータをまとめましたね。どうやって収集と解析を?」
個人の性的趣向を特定するのは容易ではないと思うのだが。
「まぁな。黒麻先輩のスマホと自宅にあるパソコンをハッキングして、保存データとネット閲覧履歴を根こそぎ引っこ抜き」
「会長を敵に回すと社会的に死ぬことは理解しました」
「あとは『ギョロリ』を使って密かに黒麻先輩を追跡してだな」
「『不気味な目玉が校内を飛んでいた!』と女生徒が騒いでましたが、やはり会長だったんですね」
「視界に入った女の特徴と、そのときの黒麻先輩の微妙な表情や態度の変化といった膨大な画像データを集積し」
「職員室のサーバに『謎の負荷』が掛かって処理遅延が出ていると聞きましたが……」
「そうして集めたビッグデータをAIで解析したのだよ!」
「……その熱意、もう少し別の方向に向けませんか?」
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