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とりあえず。
「データだけ見てても何ですから、現地調査へ行きましょう」というボクの提案で、女子運動部の部室近くまで行ってみた。
夕方でもあるし、早い時間に切り上げる部活だとそろそろ着替えに戻る頃合。もしも盗撮犯がいるだとしたら、ひょっこり出くわしても不思議はあるまい。
「しかしだな、上杉」
見回りに、伊沖会長は乗り気ではない。基本的に歩くのがお嫌いなのだ。
「まさか犯人がアホ面下げてブラブラしている訳でもあるまい。寒くなる前にとっとと引き上げるべきではないのかね?」
「……しっかりして下さいよ。会長が言い出した案件ですよ、これは」
ボクの叱咤激励に会長は両手を頭の後ろで組み、唇を突き出すようにしてぶーたれている。と、その時だった。
「やぁ! 君はオカルト科学同好会の人だね? こんな所で出会うとは。どうかしたのかい?」
ばったりと出くわしたのは、黒麻先輩だった。
「あ、黒麻先輩! 例の件で見回りですか? お疲れ様です」
ビックリして、軽く頭を下げる。
「ああ、実はそうなんだ。おっと、君たちには『走り回る人体模型の怪』の時、色々と世話になったね」
「え? ああ、まぁ、はは……」
あのときは黒麻先輩だけが安易にオカルトを信じてくれなくて、誤魔化すのが大変だったんだ。
「……そういえば会長さんは?」
「え? ボクの横に……」
気がつくと、会長はボクの真後ろに隠れていた。両の耳を真っ赤に、背中に顔を押し付けるようにして。ブレザーの裾を握る小さい手が、ぷるぷると小刻みに震えている。
「……会長、先輩が呼んでおみえですよ。素直に出頭してください」
「わ、わーとるわ! ボケ! 今、出る!」
ガタガタと震える足を何とか踏み出し、会長がボクの横へと現れる。左手はしっかりとボクの右袖を掴んだままだ。……ボク、保護者じゃないんですけれど。
「あ、あ、あ、あの……ども……」
「女子かっ! ……って、女子でしたね。すっかり忘れてました」
シドロモドロとはこのことだろう。普段のゴーマンな態度は何処へやら。
「ははは。えっと、『伊沖さん』だっけ? いや、前回の人体模型のときは色々と助言をもらえて助かったよ。何しろこの学校にはオカルトに詳しい人材が他にいないし」
ええまぁ、詳しいも何も犯人ですからね。誤魔化したとも言えますが。
だがそこをあまり突かれると会長がオーバーヒートを起こす危険とてある。
「では……」と切り出そうとしたときだった。黒麻先輩が何かを思いついたように、ポンと手を叩いた。
「ねぇ、もしよかったら君たちも協力してくれないかな。何しろ『変な目玉が飛んでいるのを見た』というオカルト情報もあるし」
「え? ……は、はい……」
二人してフリーズ状態に陥る。
……すいません。その『目玉』、会長の仕業です。
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