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「いえ、あの」
適当に言いくるめようかとしていると。
「あ、あの、ぜぜぜ是非! お、お手伝いを!」
『ここぞ』と見たか、会長がガバリと右手を上げる。緊張しすぎたのか声がひっくり返っているけれど。
……何だか、妙な胸騒ぎがするのは気のせいか。
「ああそうか! それは有り難い。何か情報を掴んでいるなら教えてくれると嬉しいが」
協力を得られて嬉しかったか、黒麻先輩がにっこりと微笑む。
「むむむむむ無論です! で、でーたなら、沢山あります!」
「本当ですかぁ? 黒麻先輩のストーキングに関するヤツとかでなくて?」
小声で囁くと。
「し、失敬な! ちゃんと盗撮犯の調査もしておる! バックグラウンドでだがな!」
とスマホを取り出した。どうやらPCのデータをクラウドで読めるようにしているらしい。
「盗撮犯とて、誰でもいいわけではなく『女性の好み』があるばすなのだ! だから、被害者の特徴をインプットしてAIでその性癖を特定することに成功しておる!」
「おお! それは凄いじゃないですか!」
思わず身を乗り出す。
凄いな、ちゃんとそういう仕事もしていたんだ。意外と抜け目が無いんだな、少し見直したというか。
「ちなみに、どんな感じなんです? その盗撮犯の性癖は」
横からスマホを覗き込むと。
「う、うむ。これだ」
画面にテキストが並んでいる。
「えっと、だな。まず身長が『下限152センチから上限162センチ』……」
「あー……何処かで見たような数値では? 何かヤな予感するんですが」
「次に被害女子のスリーサイズが『B83以上 W63以下 H88以上』で『C-Dカップ』に集中し」
「いや……これ、マズくないですか? 何だか知らないですケド」
「『髪はセミロングで』」
「あのー会長? これ、やめた方が」
「『大人しい性格の』」
「も、もう、その辺で!」
「『読書好き女子を好む傾向がある』……と出ていてな」
会長が誇らしげに最後のテキストを読み上げる。
「あとはこれと類似するプロファイルを持つ人物を探せば……」
「会長ぉぉ!」
慌ててスマホの画面を手で覆う。
「おい、何をする!」
「何をじゃないですよ! マズいですって!」
「だから何が?」
「ですから! そのプロファイル、まるっきり黒麻先輩のストライクゾーンじゃないですか!」
「おぉ! 言われてみれば確かに……気づかなかったな」
「『抜け目』どころの騒ぎじゃねぇぇ!」
冗談じゃない! こんなの犯人を名指ししているようなものじゃないか。とても黒麻先輩に見せるわけにはいかない。人権問題に関わるぞ。
だが……。
「何かあったのかい?」
異変を感じて黒麻先輩がやってくる。
「何でもありませんから!」
思わず押し返した瞬間に、黒麻先輩のポケットから何かがゴロリと転がり落ちた。
「お、おっと、しまった!」
黒麻先輩が慌てて腰を屈めるが、原因はボクだ。
「す、すいません! すぐ拾いますから……て、これは」
黒麻先輩を制して急いで拾い上げたそれは、あの『透明人間シロップ』の瓶だった。
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