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「こ……これ……は」
まるでシベリア寒気団の直撃でも受けたかのように凍りつく空気。
「はは……あの……」
いったいどうやって『透明人間シロップ』を手に入れたんだ!? ……というか、まさか!
「いや……あの!」
恐る恐る顔を上げると、黒麻先輩の顔が真っ白になっていた。
「いえ! あの! これは!」
なるほど、黒麻先輩が透明人間シロップを使ったのなら、犯人が見つからなかったのも合点が行く! しかし……。
「か、会長!」
ここは伊沖会長に助けを求めるしかない!
「会長は確か、黒麻先輩の動向をチェックしてたんですよね?! 無実を証明できますよね?」
そう、会長の『ギョロリ』が黒麻先輩の後を『こっそりと』追跡していたはずなのだ。ならば、その映像が決め手になるはず!
「お、おぅ! むむむ無論だとも! 昨日の映像もチャンとあるぞ!」
急いでファイルを開ける。
「霊視画像によると昨日の黒麻先輩は、テニス部の女子更衣室内を小型カメラを抱えてウロウロと……」
「アカン方の証拠キタぁぁ!」
というか、だ!
「その時点で『ヤバい』と気づいて下さいよ!」
「知るか! 私は盗撮犯になんぞに興味はない!」
「言い切るなぁぁ!」
黒麻先輩は酸素切れした金魚みたいに口をパクパクするだけで、何も言い返してこない。完全に『私がやりました』モード。
「どど、どうします? 会長!」
突然の展開に、ボクもオロオロするばかり。
「……私の腹は決まった!」
ぐぐ……っと、会長が黒麻先輩を睨みつける。
「上杉! ……私は間違っていた!」
「え、ええ、わ、分かりますよ、分かります!」
そりゃそうだろう。『好きな人』がまさかそんな卑劣な犯罪者だっただなんて。幻滅を超えて怒りすら覚えるに違いあるまい。
「だから私は心を入れ替える!」
「そうしましょう!」
「そして私は」
「はい!」
「悪の道を突き進むのだぁぁ!」
「……って、何でゃぁぁ!」
呆然と立ち尽くす黒麻先輩の真横に、会長が立ち並ぶ。
「いいか上杉、人間とて所詮は動物! 本能のままに生きて何が悪い!」
「万物の霊長たる誇りを思い出してください!」
「今までの私は『正義』という名の猫を被った存在だったのだ!」
「そんな姿、一度も見たことがありません!」
「ならばそのような仮の姿を脱ぎ捨てて、黒麻先輩とともに盗撮道を邁進することに決めたのだよ! 私は目が覚めたのだ!」
「むしろ寝てる方がマシぃぃ!」
そのとき、ふと黒麻先輩が何かを言いかけた。
「ど、どうしました? 黒麻先輩」
「いや、あの」
『信じられないものを見た』というような、表情。そして。
「伊沖くんって、そんな性格だったんだ……」
黙りこくる3人の間に、再びの大寒波が襲ってきた。
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