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結局その後。
ボクらがバタついたせいで周りが騒ぎ出し、仕方なく黒麻先輩をそのまま職員室まで連行する形になった。正式な処分は追って決まるらしいが、とりあえずは自宅謹慎だとか。
内緒にしてはもらったが、先輩によると人体模型事件のとき『どうも何かを隠してる』と不審に思って部室(仮)を密かに調査してあのシロップを見つけたそうだ。
先生からはボクらが黒麻先輩に行き着いた経緯を聞かれたが、まさか「ハッキングとストーキングの成果です」とも言えず。
仕方なく『謎の目玉が導いてくれました』で言い切った。『人体模型事件』のお陰か、『あいつらなら有り得るか』と納得してもらえた。
……ンなわけ、無いっつーのに。
あれ以来、伊沖会長は何処か魂が抜けたかのようだ。そりゃ、ショックが大きすぎただろうし。
「なぁ上杉」
「どうしました? 深刻な顔をして」
「人は皆、『本能的欲求』という闇を心に抱えて生きておる」
「哲学ですか」
「だが悲しいかなそれらの多くは不法で、不道徳で、ふしだらなものだ」
「そうかも知れませんねぇ」
「故に人は皆、何かしらの猫を被ってその闇を隠しながら暮らすしかないのだ。悲しいことだと思わんか」
「……何が言いたいんです?」
「よって、黒麻先輩とてその一端が発露しただけで、その全人格を否定されるべきではないと言いたいのだ」
「いや、その『一端』が大問題なわけで」
「やかましい! 黒麻先輩の何が問題なのだ? ちょっとばかり己の欲求に実直だっただけじゃないか!」
「『イケメン無罪』か! それがダメだってゆーとるんです!」
「折角私の顔を覚えてもらったのだ! まだ手はある! 『覗き趣味』という黒麻先輩の性格をどうにか改変すれば問題は解決するのだよ!」
「どーやって!」
「それを今開発中なのだ! 人の性格を改変させる化け猫型ジャケット『猫かぶり』を着せれば如何なる性癖とて矯正できる! そうすれば黒麻先輩からも感謝され、恋人ポジションの奪取とて夢ではないっ!」
「いや、仮にそれが成功したとしてもですよ!」
やはりこの人に『真っ当な生き方』という概念はないらしい。
だがしかし。
「……身長とかバストサイズとかはどうするんです? 最初だけ誤魔化せても、付き合いが深まれば何処かでは発覚しますよ?」
「……お前、馬鹿か?」
低い声でボクをジロリと下から睨みつける。
「人間はな、日々成長するのだよ! 成長ぉ! 『そのとき』までに理想のサイズへ成長していれば、それで何の問題もないだろうが!」
「そんな一気に成長するんですか!」
「当たり前だ! この私の辞書に『不可能』の3文字はない!」
「『常識』の2文字もありませんよ! その欠陥辞書ぉ!」
「ああ?! 今なんつったぁぁ?」
「ですからぁ……」
……こうして、オカルト科学同好会の夕暮れは今日も静かに更けていくのであった。
完
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