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10歳の誕生日。初めて炭酸を飲む。
ずっとこの日を楽しみにしていた。
お母さんから10歳になるまでは飲んじゃダメって言われていた。よくわからないけど骨が溶けるらしい。友達はもう普通に飲んでいるのに。一度、友達に一口飲んでみる?と言われてペットポトルに口をつけたことがあったけれど、お母さんの怒った顔が思い浮かんで、途中でやめた。
だから今日が正真正銘、初めての炭酸だ。初めての炭酸といえばやっぱりコーラ。これが王道だ。
毎年恒例のお寿司よりも、唐揚げよりも、ケーキよりも、なによりもコーラが楽しみだった。
お父さんの前にはキンキンに冷えたグラスと缶ビール。ぼくの前にはキンキンに冷えてはいないけれどお父さんと同じ形のグラスとコーラ。
大人の仲間入りをしたみたいで、いつもより姿勢が良くなる。
お母さんがコーラをグラスに注いでくれた。シュワシュワパチパチと音がする。ワクワクする大人の音だ。
「いただきまーす!」
グラスに口をつける。グラスの上の方の炭酸がぼくの鼻下に弾け飛ぶ。胸がドキドキ鳴っているのがわかった。一気に口に注ぎ、ごくりと飲み込む。
うわっ。
喉がカァっとなった。
キュッと締め付けられて苦しい。
甘いは甘い。だけど…
「美味しい?」
お母さんがぼくに聞いた。
「うん、まあまあかな」と答える。
ぷはぁ。
お父さんが美味しそうにビールを飲んでいる。
ぼくは大人になってもビールを飲めないんじゃないかと思った。
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