過去や未来をつなぐ扉

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結局、雇用されている側の店員は店主の意見に逆らえるはずもなく、店主の片腕だという彼がオーナーを務めるレストランの店長と一緒にとある場所に来ていた。そう、もう既にその場所に到着していた。 当事者である店員は怒り半分諦め半分で来た場所だったはずなのに、その景色を見た途端にその気持ちは綺麗さっぱり消えてしまった。 北国にあるこの運河は冬になると青くライトアップされてとても幻想的になるのだと、移動中の飛行機でレストランの店長から聞かされていた。あまり期待していなかったはずなのに景色を見た途端、店員の頭の中は真っ白になった。 さらさらした雪が空から降ってくるその情景は、まさに店主が次元の扉を顕現させた時に感じた感動に勝るとも劣らない程に綺麗だったのだ。雪という自然の織りなすその姿と人工物である青いライトのコントラストは、まるで青い雪が降り積もっていくような幻想的な世界を作り出していた。 何か違う点があるとすれば雪は空から降ってくるが、次元の扉から生まれる青い光は雪よりも早く一瞬で降り積もるように現れることだろう。その後青い光たちはまるで意思を持つかのように違う時間の世界へと依頼主を導くように進むべき道を作るのだ。 店員の様子を見て何やら頷いたレストランの店長は優しくこう囁いた。 「どうしてここに来たのか分かったみたいだね。あとは心を解放するだけだよ」 「心の解放ですか? 僕は特に何かに囚われていないと思うのですが……」 「解放というか、自分を信じることかな。君はこの景色を見るまで自分には絶対にあんなに大量の青い光の粒子を出せないと思ったでしょ」 「それはそうですよ、うちの店主みたいに特別変わった人じゃないんですから」 「じゃあ、私も特別変わった人になってしまうかな……それに君も。君だって扉自体は出すことができたと聞いているよ。そして私も店主と同じことができる人間の1人だから君の教育を任されたんだ」 「あなたには感謝しています。でも店主はそれ以外のことでも変わっているのであなたが特別変わっているという訳ではないというか……店主だけが変人だと伝えたかったのですが……」 「その変人店主のことは置いておいて、君も出せるはずだよあの青い光の粒子を。あの店に客ではなく従業員として雇われた意味を考えてみて。自ずと答えは出てくるはずだから」 「いえ、僕は店員として雇われたのだと思ったのですが、違ったのでしょうか」 「それだけであの男が君を雇うと思う?」 質問された店員は少し考えてみた。 「………………思えませんね、あの店主ですから」 その答えを聞いたレストランの店長は今度はハッキリとした声で言ったのだ。 「そうだね。だったらこれから君が完全な次元の扉を作り出せるようにこの運河に降り積もる雪をしっかりと心に刻みつけてね。それから自分の可能性を勝手に諦めないように」 「……分かりました。この景色はとても気に入ったので写真に残しても良いですか?」 「良いけど、それを見なくても思い出せるくらいに心に刻みつけるようにね」 僕は頷きながらスマホに景色を保存した。降り積もる雪がライトの反射で青白く輝き作り物のように綺麗だった。 「さあ、そろそろ宿に帰って食事でもしようか」 店主の片腕の男に言われ今夜の宿で春見晴らしのいい高層ホテルへと向かった。
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