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第一章 五月上旬~五月中旬 3
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「ええっ、科学技術も年々進歩しておりますが、我々の社会生活も変化しつつあります。皆さんも知っていると思いますが、多様性、BG、いや、LG」
言葉に詰まり、ポケットに手を入れる武井部長に部下の篠原課長が助け舟を出す。
「LGBTですか?」
「そう、LGBT、トランスジェンダー、マイノリティー、これからの会社は、こうしたことを十分に理解し、心から受け入れる必要があります。西野さんの入社は、そういう意味でも意義あることと思います」
武井部長が広げた紙を読み上げるのに、春夫は、「本心かなあ」と思わずにはいられない。社内では、六十歳の定年まで残り二年のこの部長、保守的な考えの持ち主として知られていて、今回のニューハーフの面接についても社長に強く言われて渋々だったという噂が流れていたからでる。
「特に営業の方に申し上げますが、西野さんは、普通の会社経験をもったことがない人なので、大変でしょうけどよろしく頼みます」
こちら向きに並んで話を聞く営業の三田部長に向かって首を曲げながら、武井部長は軽く頭をさげた。
丸顔の三田部長は、大きく頷くことで応えた。
「よろしいですかね。何か、これだけは、聞いておきたいってことありますか」
「なんでもいいですか?」
企画開発部の椎野主任が手を挙げている。髪をぐちゃぐちゃするのが癖で、今日も毛先がアッチコッチに尖がっている。
「何でも、って常識の範囲でね」
武井部長が答える。
年齢は、春夫よりも三歳上、個性的な社員で、変わった発想をすることでも知られているので、用心の先制パンチを放った形である。
「いえ、私としては、ごく平凡な質問です」
椎野主任は、負けじ、とカウンターパンチをかましてから質問内容に移った。
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