死に微睡む。

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窓から身体を乗り出して心地好い 重力に身体を任せて地面を覗き込む。 目線の先には温度なんて存在して いなさそうなコンクリートの地面が 見えて、不思議な優しい圧力でそこに 吸い込まれそうになる。 そのままじっと夢中で見つめると、 不思議とだんだん感覚が麻痺してくる。 上も下も曖昧でよく分からなくなって 窓から外に飛び込んでもいつのまにか 重力なんか無くなってしまっていて ふわりと空中を漂うのかもしれない。 本当にそうなのかもしれないと思う 自分も居るが、片方の頭の隅でそんな わけない、と囁く自分の声の方が ずっと大きい。馬鹿になりきれない 自分の思考にふうと息を吐いた。 「何やってるんですか西本さん」 ふとそんなおどけたような調子で 話しかけられゆらりと頭を上げると、 先ほどまで感じていなかった重力を 感じた。ゆっくり声の主の方を見ると、 口元にゆるやかな笑みを浮かべて ひらひらと手を振る男子生徒の姿。 「…あはは、もう何それ、 いつも敬語なんて使わないでしょ、」 意図的に口角を吊り上げてそうへらりと 笑ってみせると、彼は吐息だけで笑う。 そして、静かに僕の隣まで歩いてきた。 「何か面白いものでもあった?」 首を傾げながら瞳を三日月の形に 細めた彼はそう言いながらさっきまで 僕が覗き込んでいた窓の下を切れ長の 流し目でちらりと見た。僕は唇に薄い 笑みを浮かべて首を振った。 「んーん、何も」 「ふうん、…じゃ帰ろ、」 僕の返答に目を細めた彼はいまいち 腑に落ちないといった様子でそう言う。 くるりと背中を向けた彼にその時に 背中をぽん、と叩かれた。 それは別に友愛以外の何者でもなく、 背中に残る彼の体温に唾を飲む。 …あー、吐きそ。 「はいはいわかりましたよーっと」 いつもより少しひょうきんな声色で そう返事をすれば、彼は何だよ、と 渇いた笑いを含んだ声で言った。 階段の踊り場まで行ったところで、 ちらりと後ろを振り返った。先ほどの 窓のある廊下が目に入った。 …あそこから飛び降りる前なら、 好きって言えるのかな、なんて。
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