本編

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しかし、お別れの日が近付くにつれて、言い様の無い寂しさがヨウコに押し寄せた。 けれど、引き止めることなど、堀田君の保護者を気取ってきたヨウコに今更出来る訳もなく… 布団の中で悶々とするヨウコに、堀田君が訊ねた。 「ヨーコ、今朝はシテも良い?」 律儀な堀田君は必ずヨウコに確認する。 了解を得てから触れるのだ。 「良いよ」 後ろを向いたヨウコの頬にそっと手を触れて唇を合わせる。 相変わらず掌も唇も熱い。 冷え性のヨウコは体温が高い堀田君に擦り寄る。 堀田君の撫でるところから、ポカポカと身体が暖まっていく。 この最高に気持ちの良い触れ合いを、もうすぐ手放さなければならないかと思うと残念だ。 …寂しい、辛い。 きっと、堀田君が立ち去った後、とてつもない喪失感に襲われることだろう。 堀田君がパジャマを捲り上げて胸に吸い付く。 「ん、あ…」 ヨウコは胸元にある柔らかい髪に顔を埋めた。 最近は直ぐに涙ぐんでしまう。 そんな自分を見せたくはなかった。 堀田君は、胸を舌で舐め回しながらヨウコのパジャマのズボンを下げる。 幾分早急に下着の中に熱い手が進入し、既に潤っている部分を撫でる。 「もう、準備が出来てる」 「うん…だって、堀田君、温かくて気持ち良いんだもん」 「僕に触られたら、直ぐにこうなっちゃうんだ…えっちだね」 「えっちでごめんね」 「何で謝るの?嬉しいのに。僕もヨーコが側にいたら直ぐに勃っちゃうんだもん」 堀田君の指に突起を捏ねられて、ヨウコはよがった。 「はぁん、堀田君、気持ち良い…直ぐイッちゃいそう」 「我慢して。一緒にイキたいから」 堀田君は身を起こして、ヨウコの足の間に身体を入れた。 太股に触れる肌が更に快感を呼び寄せて、ヨウコは悩ましくため息をつく。 「堀田君の身体、熱い」 「熱いの好きでしょう?」 ズブリと差し込まれた棹に与えられる疼きに身を震わせながら、ヨウコは堀田君の首に手を回して引き寄せる。 「あっ、堀田君…っ」 「ヨーコっ、ああ…気持ち良いよ、きゅうきゅうしてる…本当に…こんな気持ちの良いことが、この世にあるなんて…!」 堀田君はゆるゆると腰を抜き差しする。 ヨウコは徐々に高まっていく身体を持てあまし、切ない声を上げ続ける。 堀田君が童貞だったとは思えないが、ヨウコとのセックスで今まで以上の快感を得ていることは確からしい。 こんなのは初めてだ、凄い、気持ち良い、おかしくなる… 堀田君は行為の最中に必ずといって良いほど、そう言って呻くのだ。 ヨウコは今までで一番、セックスの相性が良い女らしい。 …それで良い。 少なくとも、堀田君にもっと身体の相性が良い恋人が現れるまでは、覚えていてもらえる。 それまでは、ヨウコが一番。 虚しい自己満足だろうが、良いじゃないか。 だって、ヨウコはこの愛しい男とずっとはいられないのだから。 堀田君はマジックを握り締め、カレンダーの今日の日付に×をつけた。 一緒に暮らし始めてからの彼の日課だ。 「あと三日だ」 嬉しそうな横顔を見て、ヨウコは複雑な心境になる。 いくら故郷へ帰るのが楽しみだとはいえ、二年近くも一緒に過ごした恋人と別れるというのに、その態度はどうなのか。 ……まあ、堀田君に普通の人の感覚を求めるのがそもそも間違ってるか。 ヨウコは朝食のコーンスープをかき混ぜながら、息を吐く。 「マスターにちゃんとお礼を言ってお別れしときなよ」 「うん!」 「持っていきたいものは?整理しとかなくて良いの?私のバッグをあげるから詰めときなよ」 「必要ないよ!」 ヨウコは口をつぐんだ。 何一つ持っていなかった堀田君に、衣類一式その他諸々買い与えたのはヨウコだ。 勝手にしたこととは言え、それらを含め、ペアで買ったカップやパジャマ、ピアスなんかも、全部彼にとっては要らないものらしい。 仮初めの恋人と共に、一切の未練もなく捨てていくのか。 ヨウコはコーンスープを飲み干してテーブルから立ち上がると、洗面所で歯を磨く。 鏡に映った女の目には、抑えきれなかった涙が滲んでいる。 ヨウコはうがいすると、口と共に目元をタオルで拭った。 「今夜は友達と飲むから。遅くなったら一人で寝てて」 「わかった」 ヨウコは振り返らずに玄関から出ていった。 明け方に部屋に戻ったヨウコは、ベッドですうすうと寝息を立てている堀田君を眺めた。 ヨウコはベッドに腰掛けて、その髪をそっと撫で、静かに泣いた。 さっきまで友人相手に散々愚痴って号泣してきたのだが、まだ涙は枯れないらしい。 鼻を啜るヨウコの冷えきった背中を、暖かい手が撫でた。 「ヨーコ、どうしたの?」 振り向けば、堀田君が瞬きしながら不思議そうにこちらを見ている。 「涙……悲しい……ことがあったの?」 「なんでもないよ。堀田君、寝てなよ。今日はお休みだから起こさなくっても良いし」 暖かい身体がヨウコを包み込んだ。 「じゃ、一緒に寝よう。僕が暖めてあげる。暖かいの好きでしょう?」 「…そうね、暖かいのは好きよ」 「僕もヨーコのひんやりした温度が好き。気持ち良い」 「そうなんだ」 でも、堀田君は要らないんでしょう? 明日には捨てちゃうんでしょう? けれど、そんな恨み言ひとつも言えない私は意気地無しの見栄っ張りだ。 きっと、明日も笑って見送るんだろう。 ヨウコは堀田君の熱い胸の中で震えた。
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