完璧な先輩

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この日のお通しはたたきごぼう。大きなタッパーにすでに大量に作ってあるたたきごぼうを、お酒のオーダーの人数分小皿に載せていくのが私の仕事。 「たたきごぼうってね関西ではよくあるおせちなんだって。ほら、今焼き場にいる田中さん。あの人大阪出身でね、田中さんが言うにはーー」 私がはやく覚えられるように、いろんな人の名前をさりげなく教えてるのがわかった。 「市川さんって、今お客さん案内してる女の人、あの人がホールの時は生の泡の量うるさいからね。あと、あっちの金髪の坂口さんは、生だけのオーダーなら自分で注いで持って行ってくれるから楽だよ。」 はいと返事するばかりの私。 「あ、メモ取りたかったらその都度取ってくれていいからね。ごめんね、色々一度に言われても覚えられないよね。」 「はい、大丈夫です。ありがとうございます!」 なんかよくわからないけどお礼を言ってた。そして早速メモを取った。 『田中さんー 関西  市川さんー 泡  坂口さんー 生ビール持ってく』 わけのわからないメモになってしまった。 そのメモが見えたみたいで、芳賀さんが吹き出した。 「ははっ。真面目だね、佐藤さん。」 笑われたのは恥ずかしかったけど、真面目だねって言ってもらえた! ずっと笑顔の芳賀さんだけど、本当に笑うと目が細くなって八重歯が見えてかわいい顔になった。
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