完璧な先輩

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そうして、バイトを始めて一ヵ月は本当にあっという間に過ぎた。 仕事の内容もだいぶ覚えて、芳賀さんと店長以外の人の顔と名前も覚えられた。 大きい失敗もした。 それは一度にグラスを5つも割ってしまったときだ。 ガシャーン!!とものすごい音がして、飲み物が入ったグラスが全てトレイから滑り落ちて床に散乱していた。慣れてきて、このくらいなら運べるでしょと思った途端、やってしまったのだ。 一瞬のことで動けずにいると「失礼しましたー!」と声がして芳賀さんが来てくれた。 「大丈夫?怪我はない?」 怒られると思ったのに優しい事を言われて思わず泣きそうになる。 芳賀さんが割れたグラスをチリトリにホウキで手際よくまとめていく。 「すみません。運べると思ったらすべっちゃって…本当にすみません。」 グラスを片付ける芳賀さんを見ながらひたすら謝った。 「いーよいーよ。みんな一度はやることだから!」 芳賀さんが笑って言ってくれたのでますます泣きそうになる。 すると、生の泡の量に厳しい市川さんが近くに来て 「うわっ、結構いったねー。」 冷たいトーンで言うとドリンクを素早く作り直して運んで行った。 その声が聞こえていたのか、いないのか、反応しないまま芳賀さんがカラッと言った。 「ついでだから割れたグラス捨てる場所教えとくよ!」
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