完璧な先輩

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初めて聞く言葉だった。 でもなんか悪い言葉なのはわかる。 「佐藤さん、もう仕事ちゃんとできるようになったから頼んできたんだろーね。」 市川さんが言った。 市川さんが私のことを“ちゃんと仕事できる”と思ってくれていたのは意外だった。 けど気になるのはそれじゃない。 「あの、どー言う意味でしょうか。」 恐る恐る、市川さんに聞いた。 「あ、知らない?パチンコとかスロットに依存しちゃってる人のこと。アイツも相当だよ。普段いいやつなんだけどねー。パチスロ絡むと人変わるっつーか、大学もほとんど行ってないみたいだし、借金もエグい額あるらしいよ。店長に前借りとかしてるしね。せっかくいー大学入ったのに、田舎で親は泣いてるだろうね。」 あれ? さわやかな芳賀さんのイメージが…。 あれ? ちょっと情報の処理に脳が手こずっている感じ。 そういえばそんなような話、店長と芳賀さんがしていたような。 「だから他の子は誰も芳賀からの電話には出ないよ。芳賀の電話、イコール、シフト交代してか金貸してだからね。」 その日は水曜で楽な日ではあった。 けど大好きな芳賀さんがいないからなのか、 もはや芳賀さんを大好きと思えなくなっているからか、 お店は全く違う場所のように思えた。 レモンを小さめに切りながら、 私はこの片思いが、始まったのと同じ場所で消えていくのを感じていた。
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