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少年は眠りからさめた。
女の顔が目の前にあった。化粧のにおいがした。かたわらに男が立っていて面倒くさそうな顔して煙草を吸っていた。「だいじょうぶ?」と女は言った。少年はこたえずに立ち上がりゲートのほうに駆けだした。ゲートの中は相変わらずお祭りのような光にあふれていた。少年はキョロキョロとあたりを見回した。女が「どうしたの」ときいた。少年は「いないんだ」と言った。「すぐにもどってくるって言ったのにいないんだ」と言った。
女はかたわらの男とこそこそと話し始めた。いいじゃないの、とか、勝手にしろ、とかそういう言葉が聞こえた。
少年はふらふらとひとりで歩いた。老人がどこかで困っているんじゃないかと心配で歩いた。ゲートの中はたこ焼きの屋台はなかった。自分が好きなたこ焼きを探しているんじゃないかと思った。老人に、ここじゃたこ焼きは売ってないよ、僕なんでもいいよ、そう言おうと思った。
「ちょっとお」
女が甘い声を出してふらふら歩く少年の背中を抱きしめた。「すごく冷たいわ」と耳元で言った。あたたかい息が鼓膜をくすぐった。やわらかいものが少年をつつんだ。おっぱいだ。そう思った。なんだか恥ずかしくなって少年は女の腕をほどこうとした。女は少年が逃げてしまうのを防ぐようにさらに強く抱きしめた。
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