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「連れて行くわよ」と女が言った。
「あたし、男の子が欲しかったんだ。知ってるでしょ」
男は「勝手にしろ」と言って煙草を投げ捨て、歩きはじめた。女は少年を自分の胸の中から解放して、立ち上がり、少年の小さな手を握った。女は「いこう」と少年の手をひいた。男がイライラした声で「はやくしろ。おまえが、今日がいいってわがままいったんだからな」と先を急かした。少年はどうしていいかわからず下をむいた。手をつないでもらえるのはいつ以来だろうと考えた。少年は老人のことを考えた。老人は手をつないでくれなかった。寒いな。寒いな。靴のなかに雪がとけて浸み込んで冷たい。
「雪が降るとどうしてちょうどいいんだろう」
女はかなしい顔をして少年を見た。「それはね、こんな寒い雪の日だったら、ぼうやみたいなかわいい男の子が一人でいたら誰も放っておかないでしょう。ここはマッチ売りの少女の国じゃないんだから」と言った。少年は意味がわからずただ「ふううん」とうなずいた。でも、もう老人とは会えないような気がした。
「ちゃんと探してあげるわ」と女は言った。男がふりかえり「あまりいい加減な約束はするなよ」と小さくたしなめた。
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