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「ここだ」と男が大きな声を出した。女は、うわあ、と声をあげた。男はシャッターをあけて扉をひらくと「さあ、どうぞお嬢様」と外国映画の紳士のように女を招き入れた。少年が躊躇してると、「いいからはいれ」と男は上機嫌に笑った。中はまっくらだった。工作で使う接着剤のにおいがした。「ねえ、まだ電気きてないの」と女は言ったとき、明かりがついた。ガラス張りの壁、天井いっぱいの照明がカラフルな色でステージを染めた。少年は目を見張った。すごい、すごい、すごい、と騒いだ。男は「うるさい」と言いながらエアコンのスイッチを入れた。
「ここを日本のムーランルージュにしようぜ」と男は言った。女は「やっほお」と叫んで舞台にあがった。男が奥にまわって「いい音するんだぜ」と音楽をかけた。ピアノの音がした。女は靴をぬぎ、コートをぬいで、舞台でポーズを決めた。音がかわり、照明がくるくるとまわった。壁の電飾がにぎやかに点滅した。クルクルとまわってヒラリヒラリと跳んだ。少年は女が音や光を生み出しているような気がした。手をのばすと美しいピアノの一音がなる。跳びはねて着地をするとそこに光があふれた。まるで魔法使いだ、そう思った。男が「きれいだろ」と少年に言った。あいつは「マーリーっていうんだ。世界で一番の踊子だ」と鼻をならした。曲が終わり店の中は一筋の光だけになった。女がそこでお辞儀をした。少年は拍手をした。手が痛くなるほど拍手をした。
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