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「ありがとう」と女は言った。「ぼうやはこの店の最初のお客様ね」とだきしめた。少年は女の胸元に顔をうずめた。いいにおいがした。おっぱいだ。そう思った。男が「このマセガキ」と笑った。少年はうつむいた。女のむなもとをみてなんだか身体が熱くなるのを感じた。おなかがぐうと鳴った。女は少年に「おなか減ってるの」ときいた。少年はうなずいた。「出前でもとろう。なんでもいいぜ。今夜は開店の前祝だ」と言った。少年は「ハンバーグが食べたい」と勇気を出して言った。ふたりは笑った。はらをかかえて笑った。
「店の裏手に洋食屋があるから、そこで頼んでみるわ。たしかあったと思うよ。おいしそうなハンバーグ」
「くそ、まだ電話がつながってないぞ」と男は言った。「あたしいってくるよ」とマーリーはコートをはおって出ていった。ドアをあけるとき「うわ、さむ」と叫んだ。男は「はやくしめろよ」と怒鳴った。
店の中で男と二人きりになると少年はどうしていいかわからなくなった。男はカウンターで茶色いビンをとりだし、グラスに注いで飲み始めた。少年はじっと舞台を見ていた。男が近づいて「なあ坊主、マーリーはおまえをすごく気に入ってるぜ」と耳打ちした。
「おまえのかあちゃんになりたいのかもな」
ドアがあいて冷たい風が店にふきこんだ。「はやくしめろよ、マーリー」と男はどなった。「ごめんよ、クロちゃん」と女は言った。遠くでサイレンが聞こえた。「なんだかいっぱい警察やら救急車がきている。おじいさんがそこで刺されたみたい」
ハンバーグはすぐにやってきた。おいしかった。とてもおいしかった。
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