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「フカっちゃん」
柏木は繋がっている最中、切なそうな顔をしながらそう呼んだ。
「ん? 」
深沢は野性的な目をして柏木を見つめると、動きを止めた。
「……」
その吸い込まれそうな瞳を見ていると柏木は何も言えなくなり、そっと目を瞑った。
そして覆い被さる深沢の後ろ頭に両手をまわすと、彼の顔を自分の胸の辺りへと引き寄せた。
「ううん。何でもない。……続けて」
吐息を漏らすような声でそう囁かれた深沢は、チラリと柏木の顔を見た。すると彼はにこりと笑いかけてきた。
なので、同じく微笑み返して胸にキスを落としてやった。そしてその鮮やかな色をした片方の蕾を口に含む。
柏木は艶っぽい声でよがった。
◇◇◇
ことが終わり、二人ベッドに並んで天井をぼうっと見ていた。
「ねえ。フカっちゃん」
「ん、何? そういえばさっきもなんか言いたそうだったな。遠慮せずに言えば」
それを聞いた柏木は、体勢を横にすると深沢を見つめた。
深沢はこの時の柏木の顔が堪らなく好きだった。
「うん」
そう返事をすると柏木は少し目線を落として口を開く。
「僕、迷ってて」
「……帰るか、帰らないかを? 」
深沢は次の言葉をもう予想していた。
柏木は一度チラリと目を合わせると、またすぐに反らした。
「うん……」
深沢は顔を元の位置に戻し、天井に目をやって答える。
「帰った方が……楽っちゃあ、楽だよな。絶対に」
「うん。……でも」
柏木はそう切り返した。
「それって、フカっちゃんと遠距離でやっていくっていうことになるよね」
深沢は暫く黙ってから、ただ一言だけ返した。
「うん」
柏木はがばりと上半身を起こすと深沢に詰め寄った。
「フカっちゃんはそれで平気? 」
それからいくら経っても深沢は何も言わないし、微動だにもしなかった。
「ねえ。聞こえてる? 」
しびれを切らした柏木がそう皮肉った。
すると深沢はようやく顔を柏木の方へと向ける。
そして無言のまま彼の方へ両手を伸ばすと、自分の胸の中へと引き寄せそのままきつく抱き締めた。
そんなの平気なわけ……ない。
嫌だ。嫌に決まってる。
でも理由が理由なだけに。
正直な気持ちなんて、言えねえよ。
「仕方、ないだろ」
そう言うのが精一杯だった。
「……そっか」
落ち込んだような声を出す柏木に心をかき乱されそうになりながらも、深沢は続けた。
「よく考えたらいい。
どっちにするか、最後は大和が自分で決めることだ」
それを聞いた途端、柏木は深沢の胸の中に一層顔を埋めてきた。
その後ろ髪に、深沢はそっとキスをした。
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