EP.1 一寸先は、光

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今回の代金は年上の深沢が奢ることにした。 マスターの粋な計らいで、二人が最初に飲んだ分のカクテルは無料にしてもらった。 彼へ丁寧に礼を言い、またちょくちょく店に足を運ぶことを約束した。 外の空気を浴びながら二人で暫く並んで歩いていた。 「フカっちゃん、飲み足りた? 」 「あっ? ああ、まあな」 そう言った瞬間、柏木が深沢のスゥエットの袖を引っ張った。 「僕、全っ然足りない。まだやってる店はないのかな」 「……まじか」 上目使いでこくりと頷かれた。 「フカっちゃんともっと飲みたい」 「……」 深沢は苦笑いする。 「迷惑? 」 子犬のように潤んだ瞳で悲しそうにじっと見てくる柏木に、深沢の胸が疼いた。 「迷惑だなんて……んなわけあるか」 「だって渋ってんじゃん」 俯きしょんぼりとし始める柏木を見て、深沢は遂に観念した。 「だぁーっ! わかった。白状する」 そう言うと掴まれていた袖を上に勢い良くひっぱりあげて、柏木の手をそこから払いのけた。そしてジーンズのポケットに両手を突っ込む。 「煙草。……吸いてえんだよ。ずっと我慢してっから。人目気にしてコソコソとじゃなく、早く家帰ってゆっくり吸いてえよ」 「……」 柏木はそのままにっこりと笑った。 「良かった。図々しくしたから嫌われたのかと思った」 「んなわけ……」 あるかよと心のなかで呟いた。 こいつのお陰で一時的に辛いことを忘れられて、久々に沢山笑うことが出来た。 自分一人で抱え込んでいた、悶々とした気持ちを少しだけ昇華してもらった。 「明日仕事は? 」 深沢がそう口を開くと、柏木は待ってましたとばかりに返事をした。 「連チャンで休み! 」 今日会ったばかりの自分をこんなにも信頼してくれ、キラキラとした目で見てくる彼のことが無性に可愛く思えてきた。 「俺もだ」 ここだけの話、舎弟(しゃてい)でも出来たような心持ちだった。 「よし。うちで飲み直す! タクシー拾うぞ」 「うん! 」 久方ぶりの楽しい空間に、深沢の胸は心なしか踊っていた。
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