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柏木もまた、彼氏と一年前から自分名義のアパートで同棲をしていた。
しかしそれから間も無く浮気をされる。
別れを切り出されるのが嫌でずっと知らないふりをして我慢していた。
それを知ってか知らずか、彼氏はだんだん横暴になってきた。
平気で外泊はしてくるし、浮気相手との連絡のやり取りもコソコソとではなくこれ見よがしに、匂わせながらするようになってきた。
心がぼろぼろな状態が続いたある日、遂に今までのフラストレーションが押さえきれなくなり、大喧嘩をした。
相手は待ってましたとばかりにさっさと荷物を纏めると出て行ってしまった。
それが丁度一ヶ月前のことらしい。
「……辛かったな。もの凄く」
「うん……」
いつも笑顔を見せていた柏木でも、この話をすると涙ぐんで声が震えていた。
心の中が穏やかじゃなくても、こいつは人前であんな笑顔を作れるんだな。
自分には到底無理な芸当なので、とても感心した。
「ところで……彼氏っ、て」
「うん。多分フカっちゃんがお察しの通り」
そこまで言うと柏木は深沢の目を真っ直ぐに見て続けた。
「僕って、同性愛者……つまり根っからのゲイみたい」
深沢は一瞬息を止めた。
「あ……ああ、なんだ。やっぱり……そうか」
そう言うと急いで酒を口に運んだ。
「あれ。もしかして引いてる? 」
柏木は低い声でそう聞いてきた。
「まさか」
どぎまぎしながら深沢は否定した。
「嘘だ」
「いや、本当だって。ちょっとビックリしてるだけだよ」
柏木の方をチラリと見てみると、膨れっ面をしながら目を逸らされた。
「大丈夫だよ。こういうの慣れてるから」
そう言ってウサギをぎゅっと強く握りしめている。
「おい。むくれんなって。こっち向け」
深沢は彼の肩をぐっと掴んだ。
すると、柏木は素直に言うことを聞いてその通りにした。
しかし不意を突かれた深沢は思わず構えてしまった。
「何それ」
柏木に冷たい目で見られて、たじろいだ。
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