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「悪ぃ……」
身も蓋もなかった。
「大丈夫、僕は平気だよ。
フカっちゃんはノンケだから。仕方がないよ」
「……のんけ? 」
柏木はふふっと笑いながらどういう意味なのかを教えた。
「異性だけを愛する人のことだよ。その気が無い。だからノンケ」
「あ……ああ。そっか。
俺はのんけなのか。……のんけ」
柏木はウサギのぬいぐるみの中に顔をぎゅっと埋め、くぐもった声を出した。
「怒んないからぶっちゃけてよ。本当は僕と
距離を置きたくなったんでしょ? 」
「……」
無言のあと深沢は大きく溜め息をついた。
「断じてそんなことはない。俺にとってお前は大事な相談相手だし、飲み仲間だ」
すると柏木が顔をあげてじっと見てきた。
少し涙ぐんでいる。
深沢は彼に対してありったけの笑顔を向けた……つもりだった。
「フカっちゃん、気持ち悪」
そう毒づいて「ふいっ」とまた横を向いてしまった柏木を見て、深沢はやれやれと口元を緩め再度溜め息をついた。
「さあ、飲み直そうぜ」
「しょうがないなあ」
二人は仕切り直したが、先程よりも少しギクシャクした感じになってしまった。
妙にお互いを意識し合ってしまう。
深沢は気を取り直し、酒の肴としてテーブルに放り出されていたプロセスチーズに手を伸ばした。
その時彼の手の上に、柏木の長くてか細い指が重なった。
思わず身体がびくりと反応してしまい、上に乗っていた柏木の手をそのまま払ってしまった。
「あ」
「……」
時既に遅し。申し訳なさすぎてどうしたらいいのかわからず、直ぐに俯いた。
とても気まずい空気が流れる中で、柏木が口を開いた。
「言わなきゃ良かった。
僕がゲイだってこと」
「……」
「だって」
そこで深沢が顔をあげると、柏木は怒るでもなく真剣な表情で彼の目を見据えていた。
「出来ればフカっちゃんと……
この先も友達としてずっと付き合っていきたかったから」
その目からは、堪えきれずにぼろぼろと涙が溢れ出した。
「僕がもしもノンケだったら。
今のだってフカっちゃんは何も意識しないでいられたでしょ」
「大和……」
「嘘つき。頭ではわかっていても身体は正直なんだ。きっとフカっちゃんは、僕に恋愛感情を向けられたりするのが怖いんだよ」
「……」
柏木はきっと睨んでくると、試すようなことを言いだした。
「僕の全てを受け入れてくれるんなら……
おかしいと思わないんだったら。
今すぐここで抱きしめてみてよ」
深沢は息を飲み込んだ。
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