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柏木の言葉でその場は完全に時が止まってしまった。
「……」
「なーんてね。それは流石にないね。ごめん、忘れて。冗談だよ冗談。ははっ」
そう言って柏木は深沢の腕に手をかけて自分から彼を離そうとした。
「いいよ」
「……」
突然の深沢の返答に思わず絶句してしまった。彼はフリーズしてしまった柏木の代わりに自分から身体を離す。そして彼の肩に両手をそっと置くと優しい目で見つめた。
「しよう、キス」
柏木は耳を疑った。頭がだんだん熱くなっていくのが感じられる。
「え? フカっちゃん。本気にしちゃった?
マジでいいって、そんな気ぃつかわなくて」
「大和はしたくないの? 」
「え」
真剣な目でそう聞かれた。
「俺とは、嫌か? 」
「……嫌じゃない」
柏木の耳は一層赤くなり、やり場のない恥ずかしさに思わず目を伏せる。
「むしろするんだったら……
フカっちゃんがいい」
「そうか」
深沢は嬉しそうに微笑んだ。
そして顔を傾けると、様子を伺うようにして徐々に柏木へ近づいていく。
柏木もまた、それを受け入れてゆっくりと顔の角度を合わせた。
唇と唇が一瞬優しく触れた。
どちらかがそれに少し驚いてまた唇は離れてしまった。
しかし、直ぐにまたくっつけた。
今度はしっかりと相手のそれを捉える。
二人ともその柔らかな感触をじっくりと味わっていく。
深沢の両手が柏木の肩から後頭部へと移動した。
さらさらな髪の毛を撫でるようにして大きな手のひらを添える。
それでは足りなくて、もっと奥まで求めてしまう。
顔を反対側に傾け、頭を撫でながら舌をそっと出してみる。
柏木はそれに答えて唇の線を僅かにほどく。
その少しの隙間から深沢の舌がゆっくりと侵入してくる。
柏木の舌は何の抵抗もなくそれを受け入れた。
息継ぎの度に漏れる吐息が余計に二人を煽る。
深沢は無意識のうちに柏木のシャツをズボンから引き出していた。
そしてごく自然にその下の隙間から彼の薄い乙女のような胸板に向かい、手を這わせていく。
「ち、ちょっ……フカっちゃん。
待った、待った! 」
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