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「何? 」
「何って……しれっと次の段階に進もうとしてる? もしかして」
「嫌か? 」
深沢がそう言った途端、柏木は頬を赤らめて突然下を向いてしまった。
「フカっちゃん」
「ん? 」
そして気を取り直して大きな溜め息をつき、顔を上げた。
「さっきからその嫌か?って言うのやめて」
「何で」
「何でって……」
この天然っぷりを前にして柏木はそれに返す最適な言葉を探していた。
「(可愛すぎて)断れなくなっちゃうじゃん」
「お、おお。そうか? 」
また一つ大きな溜め息をついて柏木は続けた。
「あのね、この先からは、女と同じようには行かないんだ」
「知ってる」
深沢は胡座をかきながら上目遣いでそう返す。それが無性に可愛くて、彼の頭をひと撫ですると柏木はこう伝えた。
「いや、全然わかってない。
準備が必要なんだよ、何かと。だけど今は道具も揃ってないし」
「……そうか」
明らかにしょんぼりしている深沢の頬を手で包み込みながら確認した。
「フカっちゃんは本当にそれでいいの? 男とするんだよ。
あとから後悔したってもう遅いんだ」
「……」
深沢は何も言わずにじっと柏木の目を見つめている。
「ねえフカっちゃん、聞いてる? 」
「俺」
「? 」
「俺は男としたいんじゃない。
大和とだからそれでも構わないの」
その言葉に思わず舞い上がった。
とても、とても嬉しかった。
「でもお前が乗り気じゃねえなら仕方ねえよな。潔く諦めるわ。
まあ、キスだけでも出来て良かった。
ちょっくら一服してくる」
深沢はそう言ってその場で立ち上がろうとした。
すると、柏木は思わずその手を引いた。
「ん? どした大和」
「フカっちゃん」
「何? 」
「繋がることは出来ないけど……
肌を重ね合うことだったら」
柏木はそこまで言うと俯いていた顔を上げた。
「僕もしたい」
深沢はその言葉に驚いた。
「え。いいのか? 」
「うん」
「大和こそ、後悔しない? 」
「うん」
顔を上げた柏木はとてもいい笑顔をしていた。
「今夜だけ……今夜だけでいいから。
ぼろぼろになってしまった心、慰め合おうよ」
深沢も穏やかに笑った。
「じゃあ、事後処理は各々ということで」
「フカっちゃん、言い方! 」
「悪い。雰囲気ぶち壊すの得意なんだ」
深沢は柏木の方に向き直して、とっくに解放されていた手で彼の頬をとても大事そうに撫でる。
そうしてキスを再開しようとした矢先、柏木が口を開いた。
「ねえ。ベッド……行かない? 」
「……いいよ」
深沢はそう答えると愛しそうな目で柏木を見つめた。
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