EP.3 エレベーターにご注意ください

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EP.3 エレベーターにご注意ください

二人がそういう付き合いをするようになってから、二週間後のこと。 まだその熱は冷めず、どちらもお互いを求め合っていた。 四六時中会いたくて、結局は恋人のごとく頻繁にお互いの家を往来していた。 そして今日は深沢のマンションで過ごすことになった。 彼は五階に住んでいた。エレベーターを降りて、二人で真っ直ぐ部屋に向かう。 その途中、深沢の隣の部屋に住んでいる六十代のとても品の良い女性にばったりと出くわした。 「こんばんは」 たまに顔を合わせていたこともあり、深沢は軽く挨拶をした。 しかし、彼女は彼を横目で見ると、挨拶を無視してそのまま素通りしていった。 だいぶ距離が離れたところで、柏木が呟く。 「感じ(ワル)。何あの人」 そう言ってちらりと深沢の方を見ると、彼は苦笑いしながら口を開いた。 「溝口(みぞぐち)さん。……やっぱりあのことを根に持ってんのかな」 柏木は何それと興味深々で聞いた。 「フカっちゃんのこと、汚物を見るような目で見てたよ」 苦笑いを更に浮かべながら、深沢は語りだす。 「お前、覚えてるだろ? この前のエレベーターの件」 「? 」 ◇◇◇ 今から一週間ほど前。 二人で深沢の家で過ごそうと、マンションの一階にあるエレベーターに乗り込んだ。 コンビニの買い物袋を手にぶら下げていた深沢は、扉が閉まった途端に無言で柏木に迫った。そしてかごの隅へと追い詰めた。 「ちょ、フカっちゃん? 」 「なあ、キスしよ」 「はあ? 」 「その可愛い顔面見てたら部屋まで我慢できなくなっちまった」 「バカじゃないの? カメラがあるでしょうが。いい歳してみっともない」 柏木は自分の頭上で壁に片手をつきながら迫ってくる深沢の顔を両手で頑張って押し退けようとした。 「大丈夫だって。俺が盾になってお前のこと隠すから。な、ちょっとちゅってするだけ」 「駄目! 不安しかない。 やめなよもうっ。エロオヤジみたいなこと言わないで」 「いいじゃないのぉー、大和くぅん」 困っている柏木の顔があまりにも可愛すぎて、そんな事をしてからかっていた。 すると、突然エレベーターの扉が開いた。 「……あら」 ◇◇◇ 「ばかっ! フカっちゃんの、ほんっとにばかっ!」 「……すみませんでした」 柏木は間抜けな深沢にたいそう立腹した。 エレベーターで五階に降りると、部屋までの道中、説教を始める。彼はエレベーターの扉が閉まったあとに、行き先ボタンを押したつもりでいたのだが実は押していなかったのである。 それで時間が経ってしまっていた。その間買い物から帰って来たお隣の溝口さんが五階へ行こうとして、偶然にも深沢たちがまだ中にいるエレベーターのボタンを押してしまったのである。 彼女が開いた扉の先で目の当たりにしたのは、男同士でいちゃついている深沢と柏木だった。 彼女は何とも言えないひきつった表情をさせながら、別のエレベーターに無言で向かって行った。 柏木はその間、出口に人の気配を感じたので恥ずかしくて、ずっとそちらから目を背けてやり過ごしていた。 ところが深沢は、この状況をどう弁解すれば良いのかわからず、最後まで黙って溝口さんと無言で目を合わせていた。 ◇◇◇ 「ああー。あの時の人か。納得」 柏木はそう言うと、またその事を思い出したので深沢を軽く睨んでやった。 「反省してます」 深沢は苦笑いして、ペコリと柏木に頭を下げた。
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