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彼はそれから脱け殻のような時を過ごす。
世界の全てがセピア色に見えてしまって、何をするにしても身が入らないのだ。
その喪失感たるや日常生活に支障をきたすほどであった。
四年という月日は、愛実と共に過ごした記憶を細胞レベルにまでびっしりと残していった。
鍋の底にいつまでも居座り続ける、最終段階の焦げつきの様にこびりついてどうしても離れてはくれない。
どうにかして日中の仕事は淡々とこなす。
そして自宅へ真っ直ぐに帰ると即行シャワーを浴びる。
別れた日から部屋中のカーテンは、そのままずっと締め切っていた。まだ夕方で日が長いというのに、寝室はいつも真っ暗だった。
ここ最近、食事はろくに摂っていない。
この事を周りの誰かに打ち明けてもいない。
それをしてしまうと、完全に彼女との縁がそこでプツリと切れてしまいそうでとても怖い。
……そう思ってのことだった。
あれから今日で丁度二週間が経った。
ベッドで寝返りをうちながら深沢は考える。
このままじゃやべえな。本当に俺、死んじまうかも。
重い心と身体をふらふらと支えながら、とある場所へと向かう。
まだまだ宵のうち。空には明星が燦然と輝いていた。
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