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その深沢に助け船を出してくれたのは、マスターであった。
「お待たせしました。どうぞ」
柏木の前に差し出されたのは、スノーホワイトでシャーベット状になっているとても綺麗な
カクテルだった。
底の浅い逆三角形のグラスの縁に、塩のようなものが輝いている。そして真ん中には鮮やかなミントが浮かんでいた。
深沢はマスターに感謝し、自ら隣の相手に話しかけてみた。
「これは何ていう酒ですか? 」
「マルガリータです」
「あ。それ聞いたことあります」
「テキーラが好きなんです」
「? 」
柏木の脈絡が無さそうな返しに思わずきょとんとしてしまった。
それによって暫く沈黙の時が流れる。
しかし柏木は一気に場が気まずくなった理由を直ぐに理解してすかさずフォローを入れる。
「唐突にすみません。この中に入ってるんですよ、テキーラが」
「……あー。そういうことですか」
深沢は合点がいったのでこくこくと頷いた。話したいことが次々と出てきた。
「テキーラと言えば度数がエグい気がしますけど、大丈夫ですか? 俺がそれ飲んだら、すぐに酔っぱらいそう」
少しだけ、はにかみながらそう言うと柏木は頬杖をついて深沢に笑いかけた。
「何てことはないです。うちは酒豪の血筋でして」
「へぇ! 本当なんですか? 全くそうは見えませんけど」
驚いて思わず本音を返した。
するとそこでマスターも話に入ってきた。
「はい。相当、お強いです」
そう言ってニコニコしながらグラスを磨いてこくりと頷いた。
それを聞いた柏木がへへっと笑う。
深沢は一瞬だがその顔に見とれてしまった。
悪戯に笑った彼は、中性的な雰囲気が一層増していた。
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